57 / 115
SS-2-3『聖夜』
階段を駆け降りて先輩のもとへ。
ついてる!今日は自動扉にギリギリ当たらずに入れた!
「データは明後日までなんですよね!」
先輩に向けて叫んだつもりだったのに…ととと、先輩の姿は見えず、田中さんがいた。
「志摩ちゃん、待ってたよ。柴田は奥にいるから声をかけてあげて」
はーい、と返事をして白衣に袖を通し前処理室のドアを開けた。
「先輩、何から手をつければいいですか?」
「志摩!分注は終わってるからA試薬入れて」
マスクとディスポの手袋を装着してラックに並んだチューブに試薬を分ける。
「350用意すればいいですか?」
「正常値が多いだろうから325でいい」
「了解です」
ピペットで吸って、吐き出して、混ぜて…。
先輩は鮮やかな手技で次々と処理を進めていく…。
測定機器に試料をいれたらデータが出るのは今や当たり前なんだけど、前処理が必要な繊細な測定方もまだまだたくさんある。
「こういった職人芸って廃れていくんでしょうね…」
「志摩!口より手を動かせ!」
「ひゃっ、はいっ!」
…仕事中は鬼だよね…先輩って…。
それから黙々と作業を進め、気がつけば日付が変わろうとしていた…。
「先輩、再測定ありますか?」
パソコンでデータチェックしている先輩、カッコいい!
「…ん~、19…22やっとくかな。シングル19とダブルが3」
「おぉ!試薬ぴったり!」
パチパチ…ヤバい、テンションがおかしくなってきた。
「そんなのいらないから、アッセイ始めろ」
はーい、って返事して作業を再開すると前処理室のドアが開いた。
「おい、柴田データ」
あ、田中さん。
「これです。22再測で3トリプル処理します」
「じゃ、これ見てから仮眠取るから柴田と志摩も交代で休めよ」
「わかりました」
え~と、次は…A試薬添加して反応が…
「志摩、反応させたら仮眠取ってこい」
「まだ大丈夫ですよ?」
「…行ってこい」
あらら、これは逆らったらいけないヤツ…。
「…これ添加したら行きます…」
言うこと聞かないとめっちゃ機嫌悪くなる…。
てきぱきと(当社比)作業を進めて…いざ、休憩。
「それじゃお先に…反応終わる頃に呼んで下さいね」
田中さんはきっと宿直室だろうから…
「休憩室にいますね」
振り向かない先輩に一応声を掛けて部屋を出た。
ともだちにシェアしよう!