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SS-4-10『温泉に行こう』

ようやく平静を取り戻した柿崎さんに助けてもらい、ようやく退勤。 先輩には“ 今日は柿崎さんの怒りの巻き添えで遅くなります ”と連絡しておいた。 返信は“ 分かった ”と一言だけ。 正直寂しい。 もっと言葉を掛けて欲しい。 それとも僕にはその位の価値も無いのだろうか…。 帰り道、どんな顔をして家のドアを開けたらいいのか分からない。 早歩きがどんどん遅くなり僕は足を止めた。 考えが纏まらない。 ただハッキリしてる事…。 僕は、先輩が好き… そうだ、揺らがないその想いだけ信じていればいい。 僕はまた、歩き出した。 「ただいま〜」 努めて普段通りに帰宅。 「先輩?」 先輩は部屋で旅行用の荷物をバックに詰めているようだった。 「そんなに荷物あるんですか?」 ビクッと先輩の身体が跳ねる。 「志摩…おかえり」 先輩の動きがなんだかぎこちない。 「急に声を掛けてごめんなさい。驚いちゃいましたよね…」 「ば…晩飯食べるだろ?」 「はい、いただきます」 僕はちょっとだけ辛くなって、先輩から目を逸らしてすぐに自分の部屋に入った。 スーツを脱いでネクタイを外して、深く息を吐き出した。

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