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SS-4-11『温泉に行こう』
眠い…。
眠ったのは朝方で、カーテンの隙間から薄らと朝日が差し込んでいた。
…つまり、ほとんど寝てない。
夜中に荷造りするからと言って自室にこもり、涙を堪えながら旅行の準備をした。
荷物はそれほど無いんだけどね。
旅行先で“サヨナラ”と言われるんじゃないかと思うと怖くて眠れなかった。
先輩とケンカした時に使おうと持ち込んだ非常用のベットで寂しく独り寝をして…そのまま今に至る。
「志摩…朝だって…」
体を揺すられて目を開ければ大好きな先輩が僕の顔を覗き込んでいた。
「準備して出ないと…電車ヤバいぞ」
「…お…おはようございます!」
文字通りガバッと起き上がり急いで着替える。
「志摩、あと10分で出られる?」
ふんふん…と鼻歌を歌う先輩、初めて見たかも。
機嫌いいなぁ…。
メソメソグズグズしてる自分とは大違い。
「はい、大丈夫です」
…まだ…サヨナラって言われるまでは…いつもの僕でいなきゃ…。
電車を乗り継ぎ、さらに宿屋からのお迎えのマイクロバスに乗って…そろそろお昼。
新幹線の中でけど軽くお握りは食べたけど…ぐぅぅ…と腹の虫が鳴いている。
「志摩、着いたら昼飯な」
「はい…」
景色が街から山に変わり、鬱蒼とした木々の間を抜けると旅館が見えた。
年代物だろうけど、綺麗。
手入れが行き届いてる。
「こちらへどうぞ」
引き戸の先に広〜い玄関。
廊下には真っ赤な絨毯。
来たことない…高級旅館。
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