87 / 115

SS-4-15『温泉に行こう』

「先輩…あの…どなた「ごめんなさい、待たせちゃったかしら」」 スパーンと障子が勢いよく開き、僕の言葉は突然の来訪者によって無かった事にされた。 「…あ、…!」 「先程は、どうも」 にこやかに会釈する女性はこの旅館に着いた時、ラウンジで見かけた(実際は“見られた”)女性だった。 先輩は目の前の席に着くように勧め、女性はワンピースのすそをフワリと直して可憐に着席した。 …はっっ…! …まさか…先輩は年上の女性がお好みとか…?! 「…志摩!何か変な事考えてないか?」 あらら、先輩の機嫌が…。 ジト目で僕を見る…痛い…。 「事代堂くん、初めまして」 落ち着いたトーンで話す所を見ると見た目よりは年上なのだろうか。 僕の母親より一回り若く三十代後半に見える。 「あの…先輩とはどういった…」 声が震えないように気を張り、恐る恐る尋ねると… 「あはははっ、か〜わい〜!」 …は…? いきなり人が変わってませんか? 「志摩…この人は「まーくんのママでーす」って、オイ!」 その呼び方は止めろと先輩が声を荒立てた。 …ママ…お母さんか…。 肩の力が抜け、正座が崩れる。 「はぁ〜何だ、お母さ…ん?」 言いかけて気づく。 先輩、お母さんに何を言うつもり?! 先程までとは違う緊張で背中を冷たい汗が伝った。

ともだちにシェアしよう!