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SS-4-26『温泉に行こう』

「若葉…志摩がいいのか?」 若葉と呼ばれた男の子は先輩の問いかけには答えず、僕の身体を強く抱きしめた。 「は〜、そっか〜」 あぐらで頭を掻く先輩…。 でも、若葉君を見つめる瞳は優しい。 「若葉、父さんは?」 ふるふると首を振る。 意思の疎通は出来るようだ。 「仕方ない…携帯で…」 先輩は立ち上がり携帯を手に電話をかけ始めた。 「父さん…うん、若葉こっちにいるから。うん、大丈夫」 呆気なく話し終え、若葉君を真ん中にして三人横並びになった。 「志摩…気になる?」 にっこりと微笑んで僕に問いかける。 「…はい」 先輩は ふう、と大きく息を吐いた。 「若葉は…弟なんだ」 「……、……は……?」 いやいや、先輩一人っ子の設定でしょ? おかしいって! 「だって…髪も目も…色が違う…」 「うん…親が違うからね」 …はぁ? 理解できない。 「あの…わかるように…先輩…」 「その前に…志摩…」 眉間に皺を寄せて下から僕をじっと見上げる… あれ?先輩、機嫌が…。 先輩は着崩れた浴衣のまま頭をバリバリ掻く。 「いつまでも先輩呼びなんだよ!」 「あ…つい、いつもの調子で…」 プライベートまでも先輩呼びじゃ機嫌も斜めになるか! 「ユキさん…気が付かなくて…ゴメンね」 若葉くんの頭上で…彼の視界には入らない所で…ユキさんとキスをした。 ユキさんはちょっと恥ずかしそうに僕から目を逸らした。

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