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SS-4-29『温泉に行こう』

人気もまばらなロビーに戻ると先輩はソファーに座って一人新聞を広げていた。 「せんぱ〜い」 「若葉は?」 「お父さんと一緒に中庭の池の方を散策してます」 さりげなく隣に座る。 「悪いな…」 「え?何がです?」 先輩は新聞を膝に置き、キャンディーボックスからイチゴ味の飴を一つ取り出し口に入れた。 「若葉…びっくりしたろ?」 「びっくりしなかったと言えば嘘になります」 先輩は僕の手に先輩のそれを重ねた。 「若葉は…俺かもしれない…」 …?! 「は?」 ビックリして目が点に。 「先輩と若葉くん、似てないですよ。あ、僕の事が大好きっていうのは同じですけどね!」 くふふ、自分で言って照れてしまう。 「ありがと、志摩」 読んでいた新聞を立て、先輩は僕にキスをした。 微かに香るイチゴの匂い。 「あ…もう!」 重なる手に力が篭った。 散策から戻った若葉くん達とエステから戻ってきたお母さん(いつの間に!)と早めの昼食を食べた。 ご両親は僕と先輩の事をほぼ全て正確に把握して、尚且つ承認、歓迎会してくれていた。 ご両親がアメリカに拠点を置いているせいかもしれないが理解があるのは感謝しかない。 「こっちに遊びに来てね」 お母さんはそう言い、 「仲良くね」 お父さんはそう言った。 若葉くんは黙って僕を見つめたまま。 「気をつけて帰れよ」 先輩と旅館の入り口まで付きそい見送る。 「ありがとうございました。また…」 僕は一礼して三人の後ろ姿を先輩と眺めた。

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