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SS-5-4『 今日と、明日と、あさってと』
「しま…」
不意に腕を触られて、ビックリして振り払ってしまった。
「ふぇ…」
泣き出しそうな若葉くん。
「…驚いたんだ」
言い訳だ。
それでも、若葉くんを胸に抱きしめた。
「ごめん…ごめんね」
大人しく僕に抱かれている若葉くんは顔を上げて何かを訴えているようだ。
「なあに?」
「ぼく…が…わるい…ぼく…ぼく…」
瞳から大粒の涙をぽろぽろと零し、悲しげに言う。「泣かないで若葉くん…」
…君は悪くない…
その一言が、言えない。
若葉くんが存在するせいで先輩が目覚めないのかもしれない、と思ってしまう自分。
そんな訳ない。
あるはずが無い。
目の前で生から死に傾きかけた先輩…。
過去、僕は何度も先輩より先に死んでいる。
何度も。
でも僕を見送った先輩の気持ちなんて、一度も考えた事も無かった。
…辛い。
身を切られるようで出来ることなら代わりたい。
「…ッ」
ポタッと涙が落ちた。
泣かないように我慢していたのに、一粒零れたら堰を切ったように溢れて…若葉くんと一緒に泣いていた。
「…ッ…うぅ…」
細い腕が僕の顔を上げさせる。
「しま…なかな…で…」
僕を見つめるブルーアイ。
「ぼくが…いなくな…れば…?」
目元を赤くして悲しげにそう言う若葉くんに、僕は首を振った。
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