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SS-5-5『 今日と、明日と、あさってと』
「…いいんだ…」
これが運命ならば…流れに任せるしか…ない。
未だ腕の中にいる若葉くんに微笑み、その体を解放した。
「ありがとう」
目に溜まっていた最後の涙が、つうっと落ちた。
「…ッやあ…!」
急に若葉くんが足を踏み鳴らす。
「やあ!…やぁあ…!」
顔は涙でグシャグシャで、全身で怒っている。
「若葉くん、落ち着いて…あッ!」
もう一度抱きしめようとして突き飛ばされ、壁に身体がぶつかった。
「お…きて…ね…聞い…て…!」
ベッドで眠ってる先輩に馬乗りになって大声で叫んでいる。
「若葉!」
ベッドから降ろそうとしても、全力で抵抗する。
「お…きて…まさゆ…き…!」
「若葉くん…」
「わあぁぁぁん…」
布団の上で泣き出し、先輩の顔に涙の雫が垂れる。
まるで先輩が泣いているようだ。
「降りよう、ね」
「や…いやぁ…ま〜!ま〜!」
若葉くんは必死な様子で先輩の頬を撫で、髪を梳く。
「ま〜!…あぁん…」
降ろした方がいいんだろうけど…無理に降ろせず僕はベッドの側の椅子に座った。
布団の上に先輩の白い手が少し見えて、僕はそっと手を重ねた。
「先輩…起きて、目を開けて…もう、良いでしょう?」
白い手を両手で撫でると何だか動いたような気がして、ああ、願望って幻覚を見せるのかな、と思ったら先輩の睫毛が震え、目が開いた。
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