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SS-5-6『 今日と、明日と、あさってと』

「え…!先輩!分かりますか!ねぇ…!」 虚ろに天井を見る目。 「…ユキ…!」 白い手をギュッと握って名前を呼んだ。 握り返す力は弱々しいけれど、力がこもっている。 空を見ていたであろう目はゆっくりと僕を見て、それから若葉を見た。 僅かに持ち上がる口角。 …あぁ、先輩、笑ってる。 僕も嬉しい。 嬉しいのに涙が溢れて、握っていたユキさんの手もびしょ濡れで、それでも手の甲で何度も涙を拭った。 「ユキさん、痛いとか苦しいとか無いですか?」 立ち上がりユキさんの顔を上から見ると、口が形を作っている。 「あ・り・が・と・う…?」 瞼がパタッとと閉じ、ユキさんの腕の力が抜けた。

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