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SS-5-8『 今日と、明日と、あさってと』
「ユキさん、おかえりなさい」
改めてユキさんを迎え入れた。
「ありがとう、志摩。若葉、おいで」
居間のソファーに座るユキさんを若葉と囲む。
「若葉、いい子にしてたか?」
「うん。まーに褒めてもらいたいから」
頭を前に倒して若葉は撫でられ待ちのポーズをとった。
「ほら、いい子」
「ん〜!」
会話は小さい子とのそれだが、若葉は大学生だ。
身長はまだまだ伸び盛りで僕とユキさんの間くらい。
年齢は十七〜八。
そもそもはユキさんのご両親の友人が身寄りの無い若葉を引き取って育てていたのだが、その人が闘病することになりユキさんのご両親が若葉を育てることに名乗りを上げたらしい。
若葉は急速に成長している。
もともとはアメリカで大学に通っていた若葉だが、どうしても日本に残ると言い張りこちらの大学に編入してきた。
専攻は応用化学とそれ関連。
成績は優秀らしく時々実験の為に遅くまで居残りをしているようだ。
パッと見はユキさんと全く似てないが、レポートを見る限り若葉の思考やセンスはユキさんのそれとそっくりで驚くことも多い。
「若葉、学校は?」
「あ、時間!しま、まー、いってくるよー」
忙しなく出かけていく若葉をゆきユキさんと見送り、やっと二人だけの時間。
「おかえりなさい、ユキ…」
隣に座り、ユキさんを抱き締めた。
「ん、ありがと」
「僕…心配で…」
「うん…」
「ユ…ユキさんが居なくなるんじゃないかって…」
「うん…」
「…ッ…」
僕の目から涙が零れ、ユキさんの唇がそれを掬いとった。
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