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第3話
ひどく登りにくそうに階段を上っていく菅野に、葉山が声をかけた。
「やっぱりまだ具合悪いんじゃね?」
「違うよ!」
菅野は吹き出すように笑った。
そして部屋に入ってベッドに座り込んで、ちょっと顔を赤らめる。
「これは、お前のせい」
「え、なんで?」
「お前、思いっきり動いてたじゃん」
「あ、ああ、そっか、ごめん」
葉山も赤くなって俯いた。
「ま、いいって言ったの俺だしね。謝んなくていいよ」
菅野は持ってきたジュースのペットボトルにそのまま口付けて飲んだ。
その様子を眺めていた葉山が、菅野の隣に座り込んで覗き込んでくる。
「なあ、やっぱりあれってセックス?」
思わずジュースを吹きそうになって、むせた。
「ほかに、なんて言うんだよ」
「だよな」
葉山が俯いてしまった。
ちょっと心配になって葉山を覗き込むと、いつもの笑顔が向けられた。
「すっげぇ気持ちよかった」
「…それはよかった…」
菅野は心からそう思った。
自分は痛くても辛くても平気だった。
この笑顔が曇ったり、見られなかったりしないなら。
それでよかった。
「なあ、また出来る?」
葉山が悪戯っ子のような顔で聞いてくるから、可愛く思えて菅野は微笑んだ。
初めて知った快感に葉山が囚われていることはすぐにわかった。
それはあまり自分も変わらない。
自分でしたことはあるけれど、比べ物にならない快感だった。
といっても、菅野が快感を追えたのは途中まで。
「俺、まだ痛いんだけど?」
「べ、別に今すぐとかじゃないよ」
口を尖らせる葉山をからかうように笑った。
「気持ちよけりゃ誰でもいいのかよ」
「ち、違うよ!ヒロだったから気持ちよかったんだろ!」
そう言って俯いて、そんくらい分かれよ、と呟いた。
思いがけない葉山の言葉に、菅野は固まってしまった。
手の中のペットボトルを揺らして、中身のジュースが揺れるのを眺める。
言ってしまってもいいのだろうか。
少し、躊躇して、べこっとペットボトルを押した。
「俺も、将樹だからさせた」
「ほんと?」
「うん」
真っ赤な顔で菅野は小さく答えた。
「なあなあ、ヒロ?」
葉山の呼ぶ声に顔を上げると、唇を押し付けられた。触れるだけ、押し付けるだけのキス。
「じゃあ、俺たち両思い?」
にかっと笑う葉山に、どこまでも無邪気な笑顔に自然に笑みが零れる。
「やったぁ!」
葉山が抱きついてくる。
「くるしいよ」
ぎゅっと抱きしめられて、菅野は文句を言いつつ、葉山の腕に手を添えた。
「ヒロの具合が良くなったら、またしような」
ふわっと香ってきた匂いに、あれ?と思う。
昨日嗅いだ匂い。
多分これがαの匂い。
薬は飲んでんだけどな、こんなにきつく感じたのは昨日だけだったのに。
「痛くしないなら、今でもいいよ」
菅野が言うと、葉山が驚いたように覗き込んできて、その目を見つめ返すとふわっと笑った。
「だから!痛くすんなってば」
「痛くしてないじゃん」
昨日、菅野に言われた通りに触って、お互いの中心を触りあった。
そして菅野の膝を開いて、葉山は昨日入り込んだところに自分を押し当ててきたので、菅野は葉山の膝を蹴飛ばした。
「いきなり挿れたらいてぇんだよ、ばか」
「じゃ、どうすんだよ⁈」
お互いに何も経験がなく、知識もほとんどない。
ただそこで繋がれることだけはわかっていたので、目的だけはある。
不意に葉山が手を入口に伸ばしてきた。
「な、なんだよ」
「いきなりが痛いんだったら、細いのから挿れてみたらいいじゃん」
そう言ってそうっと指を一本差し込んできた。
「んんっ」
侵入してくる圧迫感に菅野が眉を寄せた。
「うわ、狭い。ここ、よく入ったよな、昨日」
「だ、から、いきなり、はいてぇって、言った、んだよ」
変に言葉を途切れさせる菅野を葉山は伺い見る。
「痛い?」
「い、たくは、ねえけど」
「けど?」
「…わかんね…」
葉山は菅野の様子を伺いつつ、指を動かしてみた。
とにかく狭いので、広げないと入らない。
昨日入ったんだから、広がるはず。
指で内壁を押し広げるように動かす。
「ん、んん、ん」
菅野からは苦痛を我慢しているような音が聞こえた。
葉山は熱心に、それでも優しく広げようと指を動かす。
やっと少し緩んできたそこを感じて、菅野を見上げた。
「もう一本、挿れるよ?」
尋ねるとこくん、と頷く。
なんだかんだと文句を言うのに、菅野は我慢してくれている。
葉山は痛くないようにしたい、その一心で内部をゆっくりと広げていく。
ふと、奥の方も広げないと、とそう思って指を入れられるだけ奥に挿れた。
壁を押し広げようと曲げた指先に何かが触れて、なんだろう、と思った時には菅野の体が跳ねていた。
「ひあっ」
前をこすり合っている時のような声。
「これ、気持ちいいんだ?」
「ち、ちょっとまって」
菅野が止めるのも聞かず、先ほど触れたしこりのようなものを指で触れた。
「あ、やあ、ん」
菅野が震えている。
どきりとするほど、普段の菅野とは違う声、色のある表情。
自然葉山の息が荒ぶる。
「それ、さわんな」
ちょっと潤んだ瞳で眉尻を下げて菅野が訴えると、ぞくぞくと葉山の背筋を何かが登ってきた。
「でも気持ちいいんだろ」
「………」
少し水分過多な瞳がじっと睨みつけるように見上げてくる。葉山はそれをまっすぐに見つめ返した。
「ヒロにも気持ちよくなってもらいたいんだよ」
「……」
「なあ、ヒロ。気持ちいいんだろ」
再び葉山が問いかけると、不機嫌そうに菅野が答えた。
「…良すぎて、怖いんだよ」
「そんなん言われても、わかんね…」
そんな葉山を見上げた菅野が、にやりと笑うと肘で上半身を起こした。
そして葉山の中心に手を伸ばして、するっと撫でた。
「う、わ、やめ」
もうすでに限界近くまで張り詰めていた為苦しげに呻いた。
「で、ちゃうだろ」
菅野はニヤニヤ笑って、抱き寄せた葉山の首をぺろっと舐め上げた。
「これより、もっといいってこと」
葉山の肉棒を手で優しく包んで先端をちょっとくりっと弄れば、とろりと体液が漏れてきた。
「…イっていいよ…」
菅野を解す為に、限界まで膨らんでおきながらずっと放置されていたことを思い出して、申し訳なくて菅野は呟いた。
「や、だ、ヒロの中でイくんだ」
ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたように苦しくなって、葉山の胸に頭を落とした。
「うん、イっていいから。だから、一回イこ?」
苦しいだろ?と呟く。
「やだ」
そう言いながら菅野の奥に挿れた指をぐいっと掻き回した。
「あ、ああ」
指先が良いところを掠めて、菅野がビクついた。
「も、いいよ、挿れても」
「ちょっと待って、もう一本入りそう」
「え」
油断した菅野にさらに指が差し込まれ、押し広げられる感覚に仰け反り、そのまま後ろに倒れた。
「ひ、ああ、あ、あ」
丹念に慣らされ、いいところも刺激され、柔らかくなったそこは痛みではない奇妙なむず痒さみたいな感覚を生んだ。
痛みでも、まだ快感でもない感覚に慣れず、菅野は身を捩った。
しばらく三本の指で押し広げるように中を弄っていた葉山が溜息のような声を出した。
「すげ…、急に柔らかくなった」
「も、いいだろ?」
「うん」
葉山はゆっくりと先端を埋め込んでいく。
「う、あ」
さすがに圧迫感を感じて菅野が声を上げると、葉山が心配そうに覗き込んできた。
「痛い?」
「ちが、大丈夫」
葉山はゆっくりと菅野を観察しながら腰を進めた。
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