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第4話
初めての昨日、なかなか進めなかったことを思うと、今日はゆっくりとだが強い抵抗もなく侵入できた。熱く泥濘む内部は、張り詰めた葉山を苦しめた。今にも達しそうになるのを、菅野を思う気持ちだけでなんとか耐えた。
「入った」
葉山が言うと、菅野はふわっと微笑む。
それから葉山の額の汗を手で拭った。
「動いていいよ」
「痛くない?」
葉山が心配そうに言う。
もう、痛いとかどうでもよかった。
葉山が必死に我慢してるのがわかって、自分はどうでもいいから、葉山が気持ちよくなればいい。幸いなことに葉山を見る限り、自分の中は葉山を気持ちよくできるらしいから。
葉山は菅野に促されるままに腰を動かした。
熱くて適度に締め付けてくる内膜が、気持ちいい。
「あ、あ、あ」
動きに合わせ、菅野からは声が漏れてくる。
葉山が動くたび内臓が揺れるのを、菅野は感じていた。
苦痛ではないけれど、やはり快感ではない。
でも気持ちよさそうに歪む葉山を見るのは嬉しかった。
「う、ごめ、俺」
やはり我慢がすぎたのか葉山はすぐに限界を迎えた。
菅野はあやすように葉山を抱きしめた。
「う、う」
葉山が中で弾けるのを、菅野は目を閉じて味わった。
数度に渡って、送り込むように射精を終えると葉山はパタリと菅野に落ちてきた。
菅野はそれを腕の中にしっかりと収めた。
「将樹」
込み上げた思いのままに呼びかけると、葉山がピクリと跳ね、同時に内部の葉山に熱が戻った。
「わ、っな、なに」
「お前が、そんな声で急に呼ぶから」
「ど、どんな声だよ!ちょ、あ、あつ」
菅野は葉山を抱きしめる腕に力を込めた。
「ごめん、動くね」
「え、う、わあ、あ」
すっかり復活した葉山は先ほどより強く腰を動かしてくる。
内部に放たれた葉山の精液が、動きをよりスムーズにした。
「ひゃあ、あ、あ、あ」
今度は菅野の声にも少し快感が混じっている。
「やあっ、ああ」
探り当てた菅野のイイトコロ。
思わず葉山がにやりと笑った。
「や、やめ、ああ、ひ、ん」
背中に回された菅野の指が食い込んでくる。
そこを目指して腰を動かせば、菅野が頭を振る。
「や、だ、ああ、ああ」
菅野の喘ぎ声に嬉しくて、興奮した。
もっと、もっと。
「ああ、ん、あ、まさ、きぃ」
菅野の目がうっすらと開いて、葉山を捉える。
開けたままの唇から、唾液が溢れた。
それを掬うように舌を這わせたら、そのまま口の中へ入り込んだ。
口内で出会った舌と触れ合うと、お互いにぞくりとした。
そのまま絡めあう。
「んふぅ、んん」
腰を本能のままに動かして、葉山は快感を追う。
その葉山に追われて菅野は快感の波にさらされる。
そして絡めあう舌の感触が、余計に二人の快感を押し上げた。
「ヒロ、も、出る」
「ん、ああ、ん、おれ、も、将樹、ぃ」
ほとんど同時に上り詰めた。
二人とも全力疾走したみたいに息が上がって、しばらく言葉も出ない。
「すげえ、良かった」
先に口を開いた葉山がつぶやくと、菅野はくすりと笑った。
「ん、びっくりするぐらい」
そして目を合わせて笑いあった。
それから学校が休みの間、ほぼ毎日会って、キスをして、抱き合った。
親の目を盗むには菅野の部屋が一番都合が良かった。
結局、菅野は発情期が訪れたことを両親に話していなかった。
葉山とのことがバレそうで。
さらに葉山に自分たちの関係にαとΩという力関係があることを知られたくなかった。
約三ヶ月後。
菅野に再び発情期がやってきた。
前回から考えてそろそろだと思っていた菅野は抑制剤を服用していた。
だが、学校が始まってからも人目を忍んで体を合わせていた葉山に、甘い匂いがすると、言われた。
そして。
最初に繋がったあの境内の裏で、菅野と葉山は体を合わせた。
いつもより興奮した葉山が菅野の部屋まで持たなかった。
早急に繋がりたがった為、制服を着たまま、境内の裏の壁に菅野を押し付けズボンを膝まで下ろし、葉山は前だけ開けて、立ったまま後ろから挿入した。
制服ごとシャツを捲し上げ現れた細い菅野の腰を掴み、自分の腰と逆に揺さぶる。
「ん、んん」
行為にすっかり慣れ、またこういう姿勢で繋がることにも困ったことに慣れていた為、菅野は口を手で必死に塞いだ。
誰かに聞かれて、中断したくなかったから。
葉山の動きはいつもより激しく、菅野が先に一度達してしまっても止まなかった。
ほとんど声も出さず、ただ腰を振り続ける。
最中に菅野を呼び続ける葉山には珍しいことだった。
発情期である菅野から発せられる香りに、無意識のうちに煽られいつもよりずっと興奮した葉山が目の前で揺れる項に噛み付いた。
「ああっ!」
じんわりと滲んできた血を舐めながら、葉山は達した。
数回震えて菅野の背中に抱きついた。
その葉山を菅野は驚愕を隠しきれず、振り向く。
「将樹、今…」
そんな菅野ににひゃと笑顔を見せる。
「ごめん、噛んじゃった。しかもちょっと血が出た、ごめんね」
「……………」
葉山はやはりわかっていない。
菅野は言葉を失ってしまった。
葉山が無意識にとった行動で、自分たちは番になってしまった。
Ωにとって結婚よりもずっと、ずっと強い繋がり。
一瞬で終わってしまったけれど、一生を左右されるほど、強く重要な儀式だった。
菅野はわずか2回で発情期が終わった。
これからはΩにすら自分がΩであることも知られない。
ただ一人、番である葉山にしかΩの体臭が作用されない。
そしてこの状況でもなお葉山に事実を話せなかった。
「いいよ、そんなに痛くなかったから」
それだけ、言った。
といってもΩの体臭が消えた菅野に、Ωの母が気付かないはずがなく。
夕食の席であっさりばれてしまった。
それからは泣きわめく母や、息子の軽率さを怒鳴り散らすαの父で大騒ぎになった。
問い詰められても決して葉山の名前を言わなかったが、葉山と面識のある母親にはバレているとわかっていた。
口を閉ざす息子の心中を察してか、母の口も重かったがαの父に番解消を匂わされると白状した。
翌日、葉山とその両親を呼び出し話し合いの場が持たれた。
その場でやっと葉山がオメガバースについて無知な理由が判明した。
葉山の両親は二人ともβだった。
しかも母方のわかる限りの先代にαはもちろんΩもいない。
唯一、父方の曽祖父にαがいたのみ。
よって母親は完全にその存在すら知らず、父親は知ってはいたけれどまさか自分の息子がαだとは思いもせず、検査すら受けていなかった。
それもただ知っているだけに近く、Ωの男が妊娠可能な事ぐらいしか知らず、番の事もそれがΩに及ぼす影響も知らなかった。
これでは咎めようにも咎めようがなく、かといって番解消による菅野への影響を考慮してそのままにするよりなかった。
ただ葉山へ避妊薬を渡したのみ。
帰り際、菅野を肘で突いた葉山が口を尖らせた。
「なんで教えてくんなかったんだよ」
「言いたくなかったんだよ」
菅野は苦笑いした。
「言えよ。お前、一人で抱えすぎ」
「…次からな」
葉山と両親が玄関で深々頭を下げ、帰っていった。
車に乗り込むところまで見送ると、葉山がいつもの笑顔で手を振った。
αとΩという関係を知っても葉山はいつも通り。
変わらず向けてもらえた笑顔に安堵する。
葉山に手を振り返して家の中に入ると、泣きそうに顔を歪めた母親と、仏頂ズラの父親に詰め寄られた。
それを無視して二階の自室に上がろうとする菅野に、叩きつけるように父親が小さな箱を渡した。
妊娠検査薬。
使い方もわからず、初めて見る物体に戸惑っていると、母親が優しく教えてくれた。
結果は、陽性。
泣きじゃくる母親と怒りに顔を歪ませる父親に、リビングのソファに押さえつけられ、無理矢理赤い液体を飲まされた。
あの時ほど泣く母親を見たことがなかった。
あの時ほど怒りを露わにする父親を見たこともなかった。
そして、初めて両親が怖いと思った。
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