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 ひとけの少ない公園のベンチに、大の大人が隣り合わせで座っている。  生い茂る広葉樹の葉は、照りつける太陽の光を遮って涼しさを感じさせた。  気まずい雰囲気を出しているのは俺で、黙ったままコンビニで買ってきたおにぎりを食べている。 「宮下、昨日は悪かったよ。いきなり告白とか、嫌だったよな」  買ってきたものには手をつけず、中崎はきまり割り悪そうに口を開いた。  ちらりと隣を盗み見れば、いつもの笑顔がそこにはない。  気まずいのは相手も同じだったようで、うつむいてうなだれていた。 「いや、えっと……俺……」  無心で食べ続けていたのを止めて、中崎の気配を探りながら返事を考えあぐねる。 「ほんと、いきなり男から好きとか言われても気持ち悪いだけなのに、ごめん」  なぜだか謝られる度に、隣の中崎が遠ざかっていくように感じた。  ふと離れる相手を想像して、背筋が凍る。  隣で手を伸ばせば触れられる距離でもあるのに、それがひどく難しい。  せっかく近づいた相手が離れていきそうで、それは恐怖となって押し寄せる。 「しばらくは昼飯も別々がいい、よな。おれ一人で食べるから、宮下も気にしないで他誘っていいから」  このまま何も言わなければ、中崎は俺の側から離れていってしまう。  寂しさは消えたのに、それはまだ身近に居座っている。  俺はまた――――――孤独に戻るのか? 「……いや、じゃない。」  一人はもう、嫌だった。  あの行き場のないオフィスで孤立して、誰からも興味をもたれない日々は恐怖でしかない。  いま俺が唯一の存在であった相手を遠ざけて、残るものは何もない。  手放せば失うものは大きすぎて、到底そんなことはできやしない。 「俺、……嫌じゃないし、昼も中崎と一緒がいい」  一人でいるのが怖い。  孤独の穴へ戻るなんて、もう無理だった。  俺は中崎の気持ちに答えてなどいないだろう。  ただ己の恐怖を紛らわすために、相手の好意を利用したにすぎない。 「宮下、それ……、本当……?」  隣に座る相手に振り向いてみれば、驚いた様子で目を見開いている。  俺はそれを目の当たりにして、罪悪感という重さの石で押し潰されそうなほど苦しくなった。 「……うん、ほんと……」  見つめあい、視線を離すことのできない状態は、互いを押さえつけた。  何の感情も込められないまま、俺は頷いて見せる。  ここにきて中崎という男を、少しくらい騙してもいいなんて愚かなことを考える。  この居心地のいい、孤独のない生活を失くすくらいなら、こいつの好意はひどく好ましい。 「キス、……していい?」  躊躇いながらも距離を縮めた中崎は、向かい合った俺の肩を捉える。 「……いいよ」  ただ触れるだけのものだ。  平日の昼下がり、周囲にはもう人影など見当たらない。  俺は絶望的な孤独を打ち消した相手を手放さないために、中崎の好意を利用することに決めた。

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