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 すでに陽が落ちた時刻。  朝目覚めたベッドのある寝室で、俺は夢中になりながら中崎とキスを交わした。  カーテンの隙間から延びる細い光の筋は、抱き合った相手の顔を照らしている。  やっとの思いで息をしたときに薄目を開けてみれば、濃い黒が浮き彫りになって思わずどきりとした。 「宮下……今日は、大丈夫なのか?」  すでに暗い部屋のベッド脇で抱き合っている俺たちは、今まさに昨日拒否した行為に及ぼうとしている。  中崎の下半身はすでに出来上がっていて、擦れる俺の前にあたりながら大きく主張していた。 「俺のこと、慰めるんだろ」 「……そうだよ、覚悟しろよな」  俺は相手を挑発するような言い方をして、恥ずかしさを紛らわせた。  中崎もそれがわかっているようで、笑いながら俺をベッドの上へと追いやる。 「覚悟って、何言ってる……んっ」  昨晩の記憶が蘇がえる。  また自分の上に覆い被さる相手の温もりが、ひどく心地よい。  無理やり割って入ってくる舌は、口内を堂々と犯していった。 「……好きだよ、宮下……」  耳元で囁かれると、全身がそれに反応して震える。  首筋に吸い付いてくる感覚は体を痺れさせて、下に向かうにつれそれが増した。 「…………俺も」  気づいた気持ちは、すでに相手へ委ねている。  俺を二度も救った中崎は希望であり、すべてだった。  閉じ込める意味を持たない感情は溢れて、相手と同じ気持ちで交ざりあいっていく。  重なりあう体の重さは心地よく、俺を心の底から虜にした。 「うれしいこと、言ってくれるね」 「うれしいのかよ」  俺の胸元にキスをしながら、徐々に着ているシャツのボタンをはずしていく中崎は笑う。  されるがままになって、体の上を這う手の動きに思わず身じろいだ。 「当たり前だろ。これで、……本当の両思い」  横になった体を後ろから寝たまま抱き抱えられて、また耳元で囁かれる。  中崎の“本当”の意味に込められた思いを、俺は瞬時に覚った。  俺の気持ちの全てを知っていたのだろうと、思わず涙が溢れる。 「中崎……、ありがと……っん……」  隠れて泣くこともできずに、無理やり振り向かされて口を塞がれた。 「泣くなって、……もう、そんな顔されたら、止まんないから」  強引に体の向きを変えられて、俺の上にまたがった中崎は下へ移動する。 「ちょっ、と!……っん」  足の間へ自身の膝を付い立てて、俺の下半身を強く刺激しながら押し込んできた。 「宮下も、感じてんだね」 「や、めろよ、そんな言い方……っ」  相手の膝で弄られながら反応する部分は、だんだんと熱を帯びていく。  まだボトムの下にあるにも関わらず、大きく主張し始めたそれは静まる気配がない。 「だって、本当だろ。ほら、気持ちよくしてやる」  ベルトの金具音が鳴り響いたと思って顔をあげれば、すでに前を開かれてするりとボトムを脱がされる。 「なにっ、あっ、……まって!」 「待てないよ」  腹の上を撫でた手はそのまま下着の中へと侵入して、熱くなった俺の局部を握りながら外へと抜き出した。  そのまま先から出る液を馴染ませながら、中崎の手は全体を優しく上下に動かしていく。 「っん……すげ、だめっ」 「……よくない?」  相手の熱が伝わると、興奮した部分はさらに固くなった。  そんな状態の自分は見るに絶えず、手で顔を被う。 「そう、じゃない……気持ちよくて、むり……」  開いた足を閉じたいのに、間にいる中崎のせいでそれを阻まれる。  動き続ける手の動きは早さを増して、先端は親指で遊ぶように弄られた。 「んんっ、だめだって……ほんと、中崎、……まって」  痺れる体は力を無くして、下に感じる快楽を味わっている。  気を許せば意識が飛びそうになり、俺をもてあそぶ相手に弱く要求した。 「宮下、まじでかわいい……。こっちも準備するね、後ろ向いて」 「後ろ……?」  ベッドに貼り付いた体を反転させられ、うつ伏せに寝かされる。  何か冷たいものが尻の辺りに塗られたのを感じで、思わず身構えた。 「あっ、……な、に?!」 「……挿れる、準備……」  冷静に言う中崎は俺の尻と太ももを撫でて、誰にも触れさせたことのない部分を探り当てた。 「なに、それって……、あっ!まって……んっ」  撫で付けた部分の奥へ、急に割り入ってきた指の感覚は苦しかった。  ゆっくりではあるが、妙な動きをしながら入り口を広げていく。 「痛い?」 「い、たくは、ない……へん、……変だから、抜いて」  心配そうに背後から声をかけてくる相手を、振り返ることなどできはしない。  必死に枕へしがみついて、長い指が動く感覚をただ耐えるだけだった。 「だめだよ、後で痛いの嫌だろ?」 「嫌だけど、……ほんと、へん、だから……っ」  苦しいはずなのに、だんだんと慣れていく自分が恐ろしかった。  けれどまだ未知の感覚に翻弄される体は、入り込む指を受け入れようとはしていない。 「でも思ったより柔らかい、指増やすね」 「は、なにいっ、て、まてって!」  こちらの抵抗も無駄に終わって、数の分だけ苦しさは増す。 「待てないって言ったろ」 「あっ、広げるなって、……んんっ」  押し開くように中を弄る指先は、冷静な俺を乱していく。  頭に血がのぼり、だんだんと相手を欲しがる欲望が生まれて、高まる気持ちは増す一方だった。 「あぁもう、無理。……挿れていい?」  少しだけ体を横にして、涙を含んだ目で中崎を窺う。  大きくボトムの下から膨れ上がった下半身を見れば、もう相手も限界なのだとわかる。 「……好きにしろよ」  覚悟なんてものはとっくに決めていて、すでに俺の後ろは相手を欲しがっていた。 「かっこいいね。じゃあ遠慮なく」  薄く笑った中崎は強引に俺の腰をつかむと、持ち上げて膝を立たせた。  尻だけ相手へ突き出す格好になり、広げられた部分は丸見えなのがわかる。 「……挿れるから……」 「うん、………んんっっ」  押し当てられた後に、ずんと中へ入り込んできたものは熱い。 「あっ………ん、っうん……」 「きっつ、………っ」  ゆっくり奥へと進む中崎のそれは、無理やり狭い部分を広げて入ってくるのがわかった。  押し入ってくるものに思わず反応して全身に力が入るが、休むことなく最奥まで侵入を許す。 「すげ、……全部、入ったよ。大丈夫か?」 「平気、………でも、動かないで……っんぁ」  抱きついた枕に顔を埋めながら、後ろの感覚を覚える。  少しでも動けば、中で擦れる部分が気持ちよく、相手をねだりかねない。 「そんなの無理。もっと宮下を、気持ちよくしてあげるからさ」 「もっと、って、……これ以上………ぁあっ!」  身構える余裕もなく、強く後ろを突かれて快楽が全身を襲う。 「あ、あっ……んっ、だ、めっ!」  何度も繰り返し突く動作は、肌がぶつかり合う音で激しさが窺える。  中で当たる部分が強く擦られて、意識が遠退くほどそれに酔いしれた。  自分の漏れる声とは裏腹に、欲しがった体は中崎が攻める腰の動きに興奮して、前の局部さえも反応し続ける。  それを後ろから回された中崎の手が握りながら弄るものだから、さらに快感は俺を取り乱させた。 「すご、い。宮下の中、……熱いし、気持ちいいよ」  突き上げる動きは止まらず、勢いよく押し入ってくるものは激しい。 「ん、っん、……あっ……お、れも……っ」  恥ずかしいなんて気持ちはとうに失われて、攻める相手を欲しがって酔いしれる。 「もう、むり。イきそう……っ」  俺の腰を掴む手の力が増して、さらに抱え込むような格好で覆い被さってくる。 「おれも、イ、くっ……んっ」  背中に伝わる相手の熱が気持ちよくて、高まった感情が一気に頂点まで沸き上がった。  後ろを犯す行為が最も激しくなったとき、前を弄る手の早さも増して限界が押し寄せる。 「あ、あっ……っあ、まってっ!んんっ」  一瞬意識が飛んで、頭の中は真っ白になる。  体の奥へ中崎の熱いものが流れ込んでくるのがわかり、相手の汚れた手を見てようやく自分も果てたのだと気がついた。  シーツと一緒に中崎の長い指を、俺の白濁した液がみごとに汚して絡み付いている。  それがやけにいやらしく見えて、力なく横になったベッドの上に丸くなった。  荒い息を整えながら、後ろでまだ繋がったままの中崎は俺を強く抱き寄せる。 「……宮下、すげぇ好き」 「…………俺も」  身をよじり繋がりを解いて、寝たまま振り返れば、入社当時の前髪が垂れた中崎がいた。  それが妙に愛しくて、俺は初めて自分から相手にキスをする。 「宮下、今の………」  驚いて目を大きく見開いた中崎は、しばらくの間沈黙する。 「……?なんだよ」 「もう一回やろう」  真剣な顔でそう言った相手の言葉に、俺は動揺した。 「なに、いって……っ」  視線を下に向けてみれば、また持ち上がった状態の部分が俺の前をつつく。  そんな相手を見返せば、含み笑いをして黒い濃い瞳で見つめられる。  俺はまた覚悟を決めて、相手の全てを受け入れることにしたのだった。

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