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第2話

なるほど―― 柴田瑛士(しばた えいし)は一人の眉目秀麗な男の横顔を見つめた。彼はひたすらパソコンの画面に目を向けている。 (確かに綺麗な顔してるわ) この日、支社から本社勤務となり今日が初出勤だった。本社で何かと注目を浴びている社員がいると聞いた。その社員は自分が課長を務める経理課にいて、部下になるという。 真っ黒で硬い髪質の自分とは違い、色素の薄い茶色の長めの髪と白い肌、涼やかな目元が印象的で中性的な少し日本人離れした綺麗な顔立ちをしている。身長こそ高くはなかったが細く華奢な体から生える手足は長く、八頭身かと思うスタイルの良さだった。 瑛士は勝手にチャラい男を想像していたが、彼は全く違った。なんだか儚く危うい雰囲気で透明感があるとすれば、こういう事を言うのだろうと思った。 同性愛者じゃなくても、惹かれてしまう気持ちもわかる気がした。 かたや自分は、身長は180センチと身長は無駄にあったが、そろそろ中年太りが気になる32歳。自分では割とモテているのではないかと自負していたが、人によくに言われるのは、黙っていればかっこいいのに残念なイケメン、だと。 彼女はいたが、転勤を機に別れてしまった。 (人形みたいだな) 瑛士の遥希への第一印象はそれだった。 彼の名は天野遥希(あまの はるき) 今年二年目だと聞いたので、おそらく23〜4歳と言ったところか。だが高校生と言っても通じる程、幼く見えた。 引き継ぎの際、前課長の大野との会話を思い出す。 「天野遥希っていう社員がいるんだけど」 大野は6つ年上の38歳で、この大野が次長に出世した事によって、自分が本社課長の椅子に座る事が出来た。 「その天野が原因で三ヶ月前、社員同士のトラブルがあった」 大野の話しは、天野遥希というかなりのイケメンがいる。その天野遥希を巡って社員同士での揉め事があり、自分と天野遥希は付き合っている、そう双方が言い合いを初め、殴り合いにまで発展してしまったのだという。 「へぇ、とんだスケコマシですね」 モテる男というのは、無条件に心証が悪くなる。 「スケ、だったらまだなんぼかマシだったかもしれないな」 「は?」 「ヤロー同士だったんだよ」 瑛士は目を丸くし聞き間違えではないかと、もう一度大野に確認すべく、 「ヤロー?男?」 そう聞き返した。 「そう、男同士で天野を巡って大乱闘」 「その天野はゲイ?」 「本人は否定してたけど、本当の所はわからんな。結局、乱闘騒ぎを起こした二人は左遷食らって、遠方の営業所に異動したよ。天野本人はどちらとも付き合ってないって言ってて、天野の知らぬ所での事だったから、天野はお咎めなしだったけど」 一度大野は言葉を切り、顎を撫でると再び口を開いた。 「俺は天野を入社した時から見てるから、おそらく何か話の食い違いがあったんじゃないかと思ってる。天野は、仕事に対しては真面目だし、そんな誑かすような事をするとは思えなくってな。元々内気な所はあったけど、最初は普通に明るい子だった。けど、それがトラウマになったのか、今は極力人と接しないようにしてるみたいだ」 「取り扱い注意って事ですか?」 「まぁ、そういう事だ。同じ経理課の奴らは天野を汲んでやってるみたいで、そっとしてる。こういう大きめな会社はどうしても噂話は付き物だから」 「噂……」 そう呟くと瑛士は天井に目を向けた。 「天野はホモだとかウリやってるとか、女子社員食いまくってるとか……お咎めなしだったのも、人事部長に体使って取り入ったとか」 「根も葉もない噂でしょ?俺は噂話大嫌いですから」 「知ってる。だから、後任がおまえで良かったよ。天野の事、少し気にしてやってくれ」 そう言って肩を叩かれた。 一日観察してみて、人を垂らし込むようには見えない。至って真面目に黙々と仕事をこなしていた。そして、必死に自分の気配を消そうとしているようにも感じた。 それでもその容姿では、嫌でも目に入ってしまう。 どこまで本当の事なのかはわからない。もしかしたら、二人の男と本当は付き合っていたかもしれない。本当は同性愛者かもしれない。火のない所に……とは言う。だが、瑛士はそういった何の根拠もない噂話が嫌いだった。瑛士は自分で確認した事以外信じない主義だった。

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