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第3話
「ったく、部長の話しなげーっての」
部長の長話に付き合い、お昼をだいぶ過ぎてしまっていた。
フロアに入ると、いつものように遥希がデスクにいた。だが、バックを逆さにし、なにやら焦っているように見えた。
「どうした?天野」
「あ……財布、忘れてしまったみたいで……お昼買えなくて」
泣きそうな顔を浮かべている。
「そんな泣きそうな顔するなよ。俺が貸してやるよ」
「すいません……明日必ず返します」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
「いつでもいいよ」
その姿が可愛いく見え、遥希の頭をクシャリと撫でた。びくっと遥希の肩が揺れ、瑛士は一瞬唖然とした。
(こういうのダメだったか?)
少し馴れ馴れしくし過ぎたかもしれない、スキンシップになるような行動には注意しようと思った。
「社食行こうぜ」
「社食……ですか?」
遥希は明らかに戸惑いを見せている。
「だって、もうこの時間だし、買いに行く暇もないし……」
「そう、ですよね……」
遥希は渋々といった様子で、瑛士の後を付いてきた。
社食に入ると大勢の社員たちがひしめきあって昼食を食べている。
遥希が社食に入った瞬間、一斉に社員の目が遥希に向いた。コソコソと話している者、物珍しそうに興味本意の目を向けている者と様々な反応だったが、遥希にしてみれば居心地いいものではないのは確かだろう。
(だから、社食に来たくなかったのか。悪い事したな)
三ヶ月前の事件とこの容姿で、遥希は社内の噂の餌食なのだろう。
(社食は嫌だってハッキリ言ってくれれば良かったのに……)
金を借りる負い目で意思表示できなかったとは言え、こんなにも社員の好奇の目に晒してしまった事に瑛士は罪悪感を感じた。
当然の事ながら、遥希は食べ終わると足早に社食を出て行ってしまった。
次の日、瑛士は遅刻ギリギリにデスクに座ると息を整えた。
「柴田さん、またギリギリですか?」
クスクスと社員が自分を見て笑っている。
「あー、二度寝しちまった」
ふと、隣に気配を感じ目を向けると遥希が立っていた。
「昨日はありがとうございました」
そう言って、ポチ袋とチョコバーを差し出してきた。
「わざわざこんな袋に入れなくてもいいのに」
そのポチ袋を受け取り、
「これもくれるの?」
チョコバーを手にする。
「どうせ、朝食まだだろうと思って」
「二度寝するくらいだからな」
声を出して笑うと、釣られたように遥希も笑みを浮かべた。
(あ、笑うと可愛いな……)
あまり見れない遥希の笑みに一瞬見惚れた。
「そうやっていつも笑えばいいのに」
無意識に遥希の頭に手を乗せた。
「あ……」
(そう言えば、こういうのは苦手だったか……)
すぐに手を引っ込めると、耳を真っ赤にした遥希は頭を下げると自分のデスクに戻って行った。
(可愛いやつ……)
瑛士の口からふっと笑いが溢れた。
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