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第7話

「良かれと思ってしていた事が人を傷付けてしまう事もあるんですよね。自分がされて嬉しい事を人にしても、全ての人が嬉しいと思うとは限らない……」 おそらく、遥希がそういう事を言うから拗れてしまうのだろう。普通の人が言えば決して悪い事ではない。だが、これだけの容姿を持つ遥希が言うと、人によっては思わせ振りな言葉と受け止めてしまう人も中にはいるのだろう。 「人の長所を見つけて、褒めるって事は凄くいい事だと俺は思うよ。ただ、誤解されない言葉選びというのはあるかもしれないな。だからって、人を褒める事をやめなくてもいいと思うけど」 追加のビールが届くと、しばし沈黙が流れた。 「そうですね……元々自分は口下手な方なので、言葉選びが苦手かもしれません」 「薄っぺらな言葉並べるよりはいいんじゃないか?」 遥希を見ると少し目を丸くしていた。 「ん?」 「いえ……柴田課長は優しいですね。そういうとこ好きですよ」 「なんだよ、褒めてもボーナスは上がらねぇぞ。つか、それがダメだって話しだろー」 そう言って声を上げて笑うと、遥希の額を軽く小突いた。 「……」 遥希が目を伏せ物思いに耽った様子で一点をじっと見つめている。 「どうしたー?」 「……でも、やっぱり俺とあまりいない方がいいです。変な噂立てられますよ」 「んー?気にしないから大丈夫」 「俺が気にします」 テーブルの上に置かれた拳が少し震えているように見えた。 「また、俺のせいで誰かが傷付くのが耐えられないんです……」 そう言うと遥希の目からはポロリと涙が溢れている。 瑛士はギョッとし、目を見開いた。 「泣くなよ……」 「すいません……俺が悪いんです。俺がちゃんと言葉選んで話していれば……それで、今度は柴田課長に何かあったらと思うと……」 泣いている遥希には悪いとは思いつつも、長い睫毛が濡れ、妙な色気を感じてしまった。 遥希は荒っぽくシャツの裾で涙を拭っている。 「おまえこそ優しいんだな」 そんな二人を恨む事なく、寧ろ自分を責めている。優しい男だと思った。 男性社員が遥希を巡って喧嘩した事件は、結局のところ相手が都合良く遥希の言葉を解釈してしまった為起きた事だと言える。 だが、詳しい話しを知らない社員たちは、面白おかしくネタにしているのだろう。 「俺も大学の時バイト先でさ、変な噂立てられて辞めた事あったよ」 掌に顎を乗せ、隣の席のカップルに目を向けタバコを一口吸い込んだ。 「その当時コーヒーショップでバイトしてて。バイト仲間の女の子に告られて、断った事があったんだよ。そしたら、腹いせなのかなんなのか、有りもしない噂立てられて……」 「どんな噂ですか?」 「常連のお客さんと不倫して、妊娠させて子供堕ろさせたって」 「とんでもない話しですね……」 「そういう話って、結局言ったもん勝ち、じゃないけど、一度噂が立つと事実じゃなくてもそういう目で見られちまうもんだよな。その噂が立ってバイト仲間もよそよそしくなって、柴田には気を付けろ、なんて言われてよー。だからさ……」 タバコを灰皿に押し潰すと、 「俺は自分自身で確認した事しか信じない」 そう言って遥希を真っ直ぐに見つめた。 遥希はその目に射抜かれたように固まると、瑛士から視線を逸らす事ができなかった。

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