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第10話
耳障りな携帯のアラームの音で瑛士は目を覚ました。
昨晩の事を思い出すと自分から手を出しておいて、どんな顔をしていいのか戸惑う。
(俺って理性弱かったんだなー)
とうとう部下に手を出してしまった。女ならまだしも、相手は男でしかも天野遥希。
(いくら天野が綺麗な顔してるからって、男に欲情するとは……)
自分は遥希に対してそういう目で見ない根拠のない自信があった。一人の可愛い部下で、何かと問題を抱える遥希を確かに他の社員よりも気にしては見ていた。そして、時折見せる弱々しく危うい遥希を、守ってやりたくなるような親心に似た気持ちでいた……つもりだった。
結局、騒ぎを起こした二人とストーカーをしている小竹、この三人と自分の根っこにある感情は一緒のような気がして、モヤモヤとした。
(自分を受け入れてくれたのは、意外だったけど……)
いい加減起きないとならない、そう思い上半身を起こした。
「おはようございます。朝ご飯食べますよね?」
瑛士が起きた事に気付いた遥希は、お盆を手にしたままこちらに目を向けた。
「美味そうな匂いだな」
「顔洗ってきて下さい。使ってない歯ブラシも置いてありますから」
「サンキュー」
昨晩の事が頭にありながら、お互い何もなかったかのようにぎこちなく振舞う。
ふと、遥希の首筋を見ると赤い跡が目に入り、途端瑛士は昨晩の遥希の姿が思い出され、顔が熱くなるのを感じる。それに気付かれないよう、洗面所の扉を開けた。
顔を洗い歯を磨き洗面所を出ると、キッチンで遥希が味噌汁をよそっているのが目に入った。
壁に自分のスーツとワイシャツが掛かっていた。遥希が置いてくれたのだろう。それに着替えると、朝食が置かれたテーブルの前に座った。テーブルには湯気の上がった朝食。卵焼きと焼き魚が置かれている。
「天野って料理できるんだ?」
「簡単なのしか作れませんけど」
朝食すらもいつも買って済ませている自分に比べたら、よっぽどしっかりしている。
二人は並んで朝食を食べ始めると、
「今日は何してるんだ?」
プライベートが謎の遥希が、普段何をしているのか気になった。
「今日は掃除して……あとは、適当に本読んだり……ですかね」
「外出しないのか?」
「用がない時以外、基本、休日は引き篭もりです」
遥希は少し悲しそうに目を伏せた。
きっと、外に出たい気持ちはあるのだろう。だが、ストーカー小竹の存在に怯え今は尚更、外に出たくないのだろう。
「じゃあ、色々ありがとな」
玄関のドアノブに手をかけながら瑛士は言った。
「はい、お仕事頑張って下さい。いってらっしゃい」
遥希はそう言って、綺麗にフワリと笑った。
瑛士は軽く手を挙げ、玄関を出た。扉が閉まった瞬間、瑛士はその場にしゃがみ込んでしまった。
(あれは……反則だろう……)
顔が酷く熱い。
まるで恋人に送り出された気分になり、瑛士の心臓の鼓動が早くなっていた。
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