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第13話
それから瑛士は遥希のアパートに入り浸るようになった。週の半分は遥希のアパートで過ごし、自分のアパートへは郵便物のチェックと着替えに取りに帰る時くらいになっていた。最初こそ渋っていたが、瑛士の強引さに押し負けたのか、今では夕飯を用意してくれたり瑛士の着替えの洗濯までしてくれるようになった。
(嫁みたいだな)
瑛士はそんな遥希を見て、ニヤニヤが止まらない。
ストーカー小竹は、瑛士が遥希のアパートに出入りするようになってからというもの、姿を見なくなった。
瑛士と遥希が付き合っていると思い、あっさり身を引いたのだろうかとも思ったが、あんなに執着していてこうもあっさりと諦めるのか疑問でもあった。だが、少なくとも、こうして自分が遥希の側にいる事によって、遥希の身の安全を確保できるのであればいい効果だ。
それに、遥希の側にいられる理由にもなる、そんな下心も確かにあった。
瑛士の中で遥希への想いは、ただの部下という枠は既に超えていた。不思議と男同士という違和感がなく、思いのほかあっさりとその気持ちを受け止めていた。共に人生を歩みたい、そう思えた。遥希も同じ気持ちだと思いたい。だが、いかんせん男同士。お互いに好きという気持ちだけで、安易に恋人同士になってしまっていいものか悩んでいた。
そんな事を考えながら、先日購入したノートパソコンを開いていた。
検索ワードは『男同士 セックス』
(いやいやいや……こんな事調べる前に、先にする事あるだろ)
そう自分に突っ込みを入れ、如何わしい検索ワードを消した。
まず、自分の気持ちを告げねばなるまい。
『おまえが好きだ』と。
会えばキス以上の事をしている。あの遥希が自分に身を委ね、自分の手で果てる姿が脳裏に浮かぶ。瑛士の下半身に熱が篭り始めた。それを鎮めるべく、瑛士は自分の中心に手をかけた。
瑛士は会社の唯一ある喫煙所で一服していた。携帯のメッセージが届いた音がし、携帯を見る。
『今日の夕飯、ハンバーグでいいですか?』
遥希からのメッセージだった。
即レスで『楽しみにしてる』そう送り返した。
「何ニヤニヤしてるんですか?」
喫煙所の扉が開き、声をかけてきたのは遥希の隣のデスクの市原だった。遥希と同期だと聞いている。
「最近、柴田課長浮かれてますよね」
市原はいやらしい笑みを浮かべ、瑛士を見ている。
「あー?気のせいだろ?」
「彼女でもできたんですか?」
「そんなんじゃねーよ」
そうは言いつつも、頭に遥希の顔が浮かんでいた。
「そう言えば、天野も彼女でもできたんですかねー」
その名前が出て、思わずドキリとする。
「へ、へぇー、なんでそう思うんだ?」
市原と目線を合わせないよう、タバコを灰皿に押し潰した。
「なんか、明るくなりましたよね。いい事あったのかな、って。女子社員が騒いでますよ」
女子社員が騒いでると聞き、瑛士はムッとした。
「さっきなんて天野の奴、パソコンでご飯レシピなんて見てましたよ」
市原のその言葉を聞いて、ニヤけそうになる顔を必死に堪え誤魔化すように、もう一本タバコを咥えた。
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