4 / 8

主任の不在

 生活のペースが乱れると、気の緩みで余計なことが露呈することがございます。  この若手も例外ではなく。    なんだか落ち着かない。主任が現地視察で不在の今週、四谷が大人しい。  チーム最若手の四谷は、白黒はっきりさせたい性格だ。序列や(しがらみ)を気にせず、相手が上役でも問題があれば吠える。人格を否定せずミスだけを詰めるので、恨まれはしない。  おっとり型の主任は、度々彼に怒られている。 「主任が気の毒だと思っていたけれど、違うのかも。  だって今週は、四谷の『トイレットペーパーをちゃんと替えろ』砲が炸裂しない」 「犯人は主任だったのか!」  トイレの紙。汚れた共用机。開いたままの引き出し。誰よりも早く気づく四谷に鞭役を押し付けて、このプロジェクトチームは円滑にまとまっていた。  頻繁に自身お薦めの甘い物を差し入れてくれる飴役の主任を『気の付く人』だと思ってきたけれど、実は違ったのか?  四谷はゲイだと噂で聞いたけれど、他の私生活をまるで知らない。  ――どんな奴なのか興味が湧いてきた。  四谷が会議から戻った。 「四谷君、お疲れ様。お茶どうぞ」 「ありがとうございます」  手には白いビニール袋。 「今日はコンビニ弁当? 珍しいね」 「あ、はい」  ランチに誘うチャンスだったのに、遅かったか。自分の湯呑を手に、近くのスツールに座った。 「いつものお弁当は彼氏の手作り?」  ボン!っと顔から湯気を出して赤面した。こんな顔もするのか。面白い。   「恋…人、が、今週は留守で。しばらくコンビニです」 「四谷君の選ぶ人はきっと気遣いが出来る人だね」 「全然! 料理は上手いけど、後片付けは俺ですし」 「へえ」  愚痴か? 思わぬ本音が聞けそうだ。 「同棲して半年ですけど、年上のくせに何度言っても製氷の水をセットしないし、麦茶が空になっても次のを作らないし。挙げればキリがないです」 「いるよね、そういう奴。百年の恋も醒めた?」 「――いえ。まだ大丈夫です」  四谷は苦笑した。 「留守もたまにはいい?」 「それが……身体が不在を実感してキツイです。  スイーツ好きに合わせて出されるままに飲み食いしていたら、無意識に身体が変わっていたようで。  今朝から眩暈がして。これ低血糖ですかね?」  あれ?  甘党で  後始末苦手で  週末まで出張の人、凄く身近にいたよな?  まさか。 「……君の恋人、トイレットペーパーの芯、交換しないだろ」  四谷はもう一度、酷く赤面した。  おあとがよろしいようで。 < 主任の不在 おしまい  > 

ともだちにシェアしよう!