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主任の不在
生活のペースが乱れると、気の緩みで余計なことが露呈することがございます。
この若手も例外ではなく。
なんだか落ち着かない。主任が現地視察で不在の今週、四谷が大人しい。
チーム最若手の四谷は、白黒はっきりさせたい性格だ。序列や柵 を気にせず、相手が上役でも問題があれば吠える。人格を否定せずミスだけを詰めるので、恨まれはしない。
おっとり型の主任は、度々彼に怒られている。
「主任が気の毒だと思っていたけれど、違うのかも。
だって今週は、四谷の『トイレットペーパーをちゃんと替えろ』砲が炸裂しない」
「犯人は主任だったのか!」
トイレの紙。汚れた共用机。開いたままの引き出し。誰よりも早く気づく四谷に鞭役を押し付けて、このプロジェクトチームは円滑にまとまっていた。
頻繁に自身お薦めの甘い物を差し入れてくれる飴役の主任を『気の付く人』だと思ってきたけれど、実は違ったのか?
四谷はゲイだと噂で聞いたけれど、他の私生活をまるで知らない。
――どんな奴なのか興味が湧いてきた。
四谷が会議から戻った。
「四谷君、お疲れ様。お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
手には白いビニール袋。
「今日はコンビニ弁当? 珍しいね」
「あ、はい」
ランチに誘うチャンスだったのに、遅かったか。自分の湯呑を手に、近くのスツールに座った。
「いつものお弁当は彼氏の手作り?」
ボン!っと顔から湯気を出して赤面した。こんな顔もするのか。面白い。
「恋…人、が、今週は留守で。しばらくコンビニです」
「四谷君の選ぶ人はきっと気遣いが出来る人だね」
「全然! 料理は上手いけど、後片付けは俺ですし」
「へえ」
愚痴か? 思わぬ本音が聞けそうだ。
「同棲して半年ですけど、年上のくせに何度言っても製氷の水をセットしないし、麦茶が空になっても次のを作らないし。挙げればキリがないです」
「いるよね、そういう奴。百年の恋も醒めた?」
「――いえ。まだ大丈夫です」
四谷は苦笑した。
「留守もたまにはいい?」
「それが……身体が不在を実感してキツイです。
スイーツ好きに合わせて出されるままに飲み食いしていたら、無意識に身体が変わっていたようで。
今朝から眩暈がして。これ低血糖ですかね?」
あれ?
甘党で
後始末苦手で
週末まで出張の人、凄く身近にいたよな?
まさか。
「……君の恋人、トイレットペーパーの芯、交換しないだろ」
四谷はもう一度、酷く赤面した。
おあとがよろしいようで。
< 主任の不在 おしまい >
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