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第7話 大学時代②

桐ヶ崎を避けて数ヶ月。避け続けても初恋である桐ヶ崎への感情はなかなか消えずに残っている。 今は月に2.3回会うだけのペースになり、俺は寂しいと思いながらもホッとしていた。避け始めた時は桐ヶ崎も何で会う回数が減ったんだと聞いてきたけれど最近は何も言わなかった。元々友達が多いので、俺の代わりは沢山いるので何も問題はないだろう。 会う回数が減った分、会った時は嬉しさが溢れてくる。でも気づかれる訳にはいかないので、表情には出さずにいつも通りを徹した。また、会った時に彼女の話を聞きたくなかったので、俺は自分の事を沢山話した。 「同じ経済学部の人がさ、起業するんだって。凄いよな。大学生で社長。」 「企業かあ…。社長になって自分のしたい事できるのは楽しいだろうね。」 「だな。俺も将来の事考えないとな。桐ヶ崎は高校の時から将来見据えてるんだし。」 がやがやと賑わっている食堂で桐ヶ崎と向かい合って食事を食べる。 来年は大学3年になり、早いやつは3年の始めで就職活動を開始する。俺は大学生になっても将来何がしたいかはっきりと決まっていなかった。就活をして、決まった会社で働くんだろうと漠然と想像している。 「心理士になるなら大学院まで行かないといけないからね。早く働きたい気持ちもあるし、迷い中。」 「そっか。やっぱ凄いな。なりたいことがしっかりあって。俺は桐ヶ崎のように、相談に乗ってあげたいとか思えないし。相談に乗って欲しいのはわかるけど。」 「そう?問題解決ってすごい達成感だけどな。ってか栗原、相談に乗って欲しい事あるの?俺聞きたい。」 桐ヶ崎が一旦箸を置いて、身体を前傾姿勢にして、俺の顔を見る。しっかり話を聞く姿勢をとられ、俺は内心慌てた。 今俺が悩んでいるのは桐ヶ崎の事だ。好きだけれども、告白が出来ない。一緒にいたいけれど、一緒にいたら苦しい。 本人には相談出来ることじゃない。 「………やっぱ就活の事だな。」 1番無難な答えを口にする。実際将来はどうしようか悩んでいたので、相談事には適している。 「就活かぁ。栗原はさ、好きな事は何かないの?」 「んー…、音楽聴くのは好きだけど、仕事として関わりたいとかは思ってないし、アニメみるのは好きだけど、絵は描けないしな…。」 「じゃあ……したい事は?」 「したい事?んー…特にはないな。」 したい事と言われても、ぱっとは何も浮かばなかった。 「難しく考えないでさ、俺みたいに相談に乗りたい。とか人と話がしたい、人の心を知りたいとかそんな感じで。」 「んー………。」 桐ヶ崎みたいに相談に乗りたいはまずない。今したい事は誰かに相談に乗って欲しい。桐ヶ崎の気持ちを暴露して、今の自分とどう向き合えばいいか教えてほしい。桐ヶ崎に知られないところで。でもそんな場所はないし、相談出来る人もいない。そういえば高校の時も、こんな気持ちを感じてた。誰にも相談出来ずに1人で抱え込んでた………。 「あ。」 「どうしたの?」 俺は頭に閃くものがあった。うどんを啜ろうとしていた手が止まる。頭の中で次々と描かれる内容に、俺はわなわなと実現させたいと言う気持ちが溢れ出てくるのを感じる。 桐ヶ崎が俺が話し出すのをじっと待っていてくれていたようだが、俺はこの閃きを実現出来たらすごいんじゃないか、どうやったら実現出来るのだろうかと考える。 大学の起業支援を話していた同じ学部の人の話を思い出す。まずは総務課に行って、資料をもらって読み込んで出来るかを考えなければ。 俺は残り少なかったうどんを勢いよく啜る。そして、席を立った。 「えっ?!栗原!どうしたの?!」 桐ヶ崎の大きな声で周りの人が何事かと目線を向ける。俺も大きな声のおかげで桐ヶ崎に呼ばれた事に気がついた。 「総務課に行きたい。」 「えっ?何で総務課?そんなに慌てて急ぎなの?」 「急ぎじゃないけど、早く確認したい。ありがとう桐ヶ崎。」 「え?どう言う事?」 「じゃあまたな。」 「えっ!ちょっと待って!待ってったら!俺も総務課ついていく!」 そう言うと急いでオムライスを胃に詰め込んでいる。別に俺1人でよかったのだか、待っててと言われたので、頭の中で考えながら食べ終わるのを待った。

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