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第10話 飲み会①
2000万ダウンロード突破を記念して、飲み会を開催した。
全社員の2/3程集まり、なかなかの大所帯となっている。忘年会シーズンではないため、店内はほぼ貸切状態だった。
俺の声は遠くまで届かないので、音頭は桐ヶ崎に任せた。
「我が社の更なる発展と、本日お集り頂きました皆様のご健勝とご活躍を祈念いたしまして……乾杯!」
「乾杯ーー!!」
店内が一気に賑やかになる。みんなそれぞれテーブルの上の料理を摘んだり、飲んだりしながら話に花を咲かせる。
桐ヶ崎は俺の隣いる。オフィスも隣だが遠いので殆ど意識せずに仕事に集中できるが、飲み会の席はいつくかのテーブルを繋げただけなので、距離が近く肩や服が時々触れてしまう。
胸のざわめきはいつものように無視をして、黙々とサラダや刺身を口に入れていく。
「栗原すげえ勢いだな。腹減ってたの?」
「うん。会議とか書類確認してたら、飯食うタイミング逃した。」
「食べてないの?もー、言ってくれれば書類確認ぐらいするのに。」
「桐ヶ崎は外回りしてくれてんだから、いいんだよ。俺の仕事とるな。」
桐ヶ崎の外見やコミュニケーション能力、人の懐に入るうまさは凄い武器だ。その能力で、コンサルタント界で名の知れた企業の一部社員の登録をこぎつけてくれ、サイトの信頼度が一気に上がった。中小企業向けのサイトが成り立っているのは、桐ヶ崎の営業の力が大きい。今でも営業で登録者を増やしてくれている。
一方俺は社交的ではないので、会社経営方針や問題解決、決定事項の確認など、会社内で働く業務を主に行なっている。
「桐ヶ崎さーん!」
「はーい。」
飲み始めて1時間弱。少し離れたところから数人の女性が桐ヶ崎の名前を呼ぶ。桐ヶ崎の返事を聞くと、女性達はこっちに向かい、桐ヶ崎の周りにいた若い男子を少しはけさせ、囲むように座った。
「一緒に飲みましょう!」
「ああ、うん。じゃあ乾杯ー。」
「乾杯ー!」
その周りだけ再度乾杯し、お酒を片手に談笑が始まる。俺も乾杯の時だけは、一緒にしたが、話が始まるとすっと輪から抜ける。女に囲まれながら笑っている桐ヶ崎にイライラした。これだからモテる男は。
輪を抜けても、席は近いので、話している内容がぽんぽん聞こえてくる。
「桐ヶ崎さん!今度ここの3人と一緒に飲みましょう〜!いいお店知ってるんです。」
「いいね!みんなで行きたいー!絶対楽しいよー。」
「あっ、でも桐ヶ崎さんに彼女いたら申し訳ないよね〜…。桐ヶ崎さんって彼女いるんですか?」
「あっ聞きたい聞きたいー!」
意識的に避けていた話題が耳に入る。席を外そうと思うが、隣でも男性陣が盛り上がっており、後ろを通るのは忍びなかった。
「彼女はいないよ〜。」
えー!そうなんですかー!と黄色い甲高い声が響く。うるさい。耳が痛くなる。
ってか彼女いないのか。ずっと切らしたことのない恋愛多き男だから意外だった。
「じゃあ是非飲みいきましょ!私予約取るんで!」
ぐいぐいくる女は側からみても、桐ヶ崎を狙っているのがわかる。お酒のせいか目がギラギラとしており、肉食獣のようだ。
「それは出来ないんだ。ごめんね。」
柔らかい口調だが、きっぱりと誘いを断った。不満の声が続き、桐ヶ崎が口を開く。
「彼女はいないけど、彼氏が嫌がるからさ。個人的な飲み会は参加しないようにしてるんだよ。」
「「え」」
「は?」
俺は思わず、声を出して桐ヶ崎を見てしまった。周りの彼女たちもさっきの騒めきが嘘のように水を打ったように静かになった。
「……桐ヶ崎さんってホモなんですか?」
沈黙を打破するように女が話しだす。
「椎名君。」
彼女の名前を桐ヶ崎が読んだ。飲み会の空気にはそぐわない固い声。
「差別的な言い方はどうかと思うよ?ステップアップでもLGBTの悩みは数知れない。管理する側の職員だから、発言は気をつけたがいいよ。」
「あ…すみません……。」
笑顔だが、有無を言わさない雰囲気に女は謝り、数分すると女達は席を離れていった。
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