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第14話 次の日②

「いってぇええ!」 無様にベッドに突っ伏している桐ヶ崎を見ながら、徐々に思考が冷静になってくる。 相手が悶えている間にゆっくりと痛まないように下着と服を身につけた。 「桐ヶ崎。」 「〜栗原っ、何で蹴ったの?!」 涙目になっている。手は股間を押さえており、急所にクリーンヒットしたのかと少し罪悪感を覚えるが、それよりも事実確認が先だ。 「俺は何でここにいる。」 「…は?そりゃ、あれだけ飲んで、潰れて一人で帰れなかったから俺んちに連れて帰ったんだけど。」 「そうか。それはありがとう。助かった。」 「……どういたしまして。」 怪訝そうな顔で俺を見るが、無視して話を進める。 「…昨日、俺と桐ヶ崎との間で、セックスはしたのか?」 所々曖昧だが、あのリアルな夢の通りならば、俺は…… 「……したよ。覚えてないの?」 不安そうな顔で俺を見てくる。ぐっと身体に力を入れ、俺はあの夢が現実で、口走ったことも現実なのかと過去の自分を殴りたくなる。 「…あんまり覚えてない。変なことを口走ったかもしれないが、酔っ払いの戯言だ。すまないが、お互いに無かったことにしてくれ。」 「は……何それ。」 傷ついた顔にぐっと胸が痛むが、お互いのためだ。絶対後で後悔する。 「…ずっと隠してたが、俺はゲイだ。桐ヶ崎もバイだから偏見はないと思うが、社員のみんなには言わないでくれ。」 「…当たり前だ。人のセクシャルを言うわけないだろ。それより、忘れてくれってお願いは聞けない。俺は栗原が好きだって気づいたから。」 「……っ」 怒ったように眉間に皺を寄せ、俺の手首を掴む。強い目線に胸が震える。 「…お前、彼氏いんだろ。」 「別れる。栗原と付き合いたい。」 さらっと言った桐ヶ崎の発言に、俺は絶対に付き合わないと心に決める。 「付き合わない。昨日のことは過ちだ。忘れてくれ。」 「何で?高校の時から好きでいてくれたんだろ?」 くそっ。そんなことも口走ったのか。痛む頭が更に重たく感じる。 「…そうだ。でも付き合わない。」 「何で?」 いつもニコニコと笑ってる顔が怒ってる。そんな顔もするんだなと初めて見る顔にドキドキする。 「桐ヶ崎がいい奴なのは知ってるが、恋愛面ではクソだからだ。」 「…別にひどい事してるつもりはないけど。」 さらりとひどい事はしていないと言う。ああ、絶対付き合うなんて無理だ。 「今まで付き合ってた奴と一番長く続いたのは何年だ?」 「何年?……年もないよ。4ヶ月かな。」 「…何で続かないんだ?」 「それは…、想像と違うって言われたり、そんなに好きじゃなかったり、まぁ色々あるけど。でも栗原は違うよ。ずっと一緒にいるし、セックスも今までで一番気持ちよかった。あんなに満たされたのは初めてだったよ。」 恋多き男に、好きな男に、一番と言われて嬉しくないはずがない。喜びがせり上がってくるが、無表情のまま見つめる。幸い(元凶でもあるが)昨日気持ちを吐き出したので、いくらでも我慢出来る。 「そんなにコロコロコロコロと付き合ってる奴が変わって、バイなんて不安しかない。もし付き合って、好きじゃなくなったらどうするんだ?桐ヶ崎は別れた奴とずっと一緒に会社やれんのかよ?」 長く付き合って4ヶ月。過去のデータからも、4ヶ月経ったら別れている可能性が100%なのだ。ただの平凡にこんなイケメンを繋ぎ止める魅力があるわけない。 「しかもお前今彼氏と付き合ってんだろ?付き合ってる奴がいるのに、俺と身体の関係持って、相性よかったから別れる?ふざけんな。俺がもし現時点で一番でも、次相性のいい奴現れたらおしまいだろ?だから絶対付き合わない。」 付き合って別れたら、俺は2つも大事なものがなくなる。桐ヶ崎と、会社という居場所。密接に関係しているからこそ、終わりが見える関係を持ちたくない。 俺がまくし立てて話すと、桐ヶ崎は言葉が詰まって出てこないようだった。まあ図星だろう。耳に痛いことを並べたからな。 「栗原。」 「なんだ。」 「栗原が言ってるように、付き合っても別れることもないとは言えないよ。でも今までとは違うと思う。栗原とはずっと一緒だって未来が描ける。」 「………。」 大丈夫。表情には出てない。 「俺はどんな形であれ、栗原の近くにいるよ。でも、今は恋人として接したい。キスして、抱きしめて、セックスしたい。」 身体を引き寄せられて、抱きしめられる。 「もう関係を持ったんだ。お互いに忘れろって言って忘れれる訳がない。栗原は関係が変わることを怖がっているようだけど、もう昨日の時点で関係は変わってるんだ。戻ることは出来ないよ。」 「………」 桐ヶ崎の言葉が胸に重くのしかかる。関係が変わってる。そうだ。もう俺の気持ちもばれてしまってる。付き合っても、付き合わなくても知られていることには変わらないのだ。 でも。 このまま、今日の事を過ちとして過ごしていけば、最後は笑い話で、そんなこともあったな、なんて言えるんじゃないかとも思う。別れて気まずいよりずっといい。 「……無理だ。」 「……わかった。じゃあ付き合いたいって思ってくれるように頑張るよ。」 スッと身体が離れていく。自分で無理だと言いながら、触れ合いがなくなると寂しさを覚える。 「ご飯食べよう。クッションあるから使って。」 「……ああ。ありがと。」 昨日の自分を後悔しながらも、桐ヶ崎が付き合えるように頑張ると言ってくれたことに、嬉しさを感じながら、用意してくれた机の前へ身体を動かした。

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