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第15話 甘い日々

桐ヶ崎が言っていた、『頑張り』は次々と訪れた。 「お疲れ様。昼食に評判のいい、ベーグル買ってきたんだ。サンドウィッチみたいに中に具が入ってて、これは海老アボカド。しかもワサビ醤油味だよ。栗原好きでしょ?」 「そんな眉間に皺寄せて、画面見てたら身体に悪いじゃん。ほら、少しあっちでコーヒー飲もう。」 「顔そんなに真っ赤にして可愛いな。キスしていい?」 会社で外回りが多い桐ヶ崎とは、基本一緒にいる事は少ないが、告白して以降、会社に帰って来た時必ず俺に話しかけてきた。時々俺の好きな物をくれたり、さりげなくボディタッチをしたり。 実家から届いた食料消費を手伝いに桐ヶ崎の部屋にも訪れた。隙あらば触れてこようとするので、必死で押しのけて身体の関係を持たないようにした。 「栗原。仕事終わりそう?」 「……もう終わる。」 午後7時。社内には俺だけいたが、桐ヶ崎が外回りから帰ってきた。1日中動き回ったとは思えない、疲れを見せない笑顔に尊敬する。 ずっとパソコンを触っていた俺は眼精疲労と腰痛がツラい。最終のデータ確認と、書類に目を通し、机を片付ける。隣の机でじっと待ってくれていた桐ヶ崎と目が合う。 「明日休みだし、ご飯食べた後どっか行かない?」 「……どっかってどこに行くんだ。」 「ん〜、食べながら考えようと思ったけど…。あ。映画はどう?」 「映画?なんか観たいのあんの?」 「うん。NIB:(ノンインブラック)4が観たい。」 「いや、俺観たことねぇし。」 「そうなの?じゃあ俺んちで1から観ようよ。DVDあるよ。」 「え、……い、嫌だ。パソコン見すぎてもう画面見たくない。」 「じゃあ、部屋でのんびりしよう。大丈夫。栗原が嫌がる事はしないよ。…まあ嫌がらないなら色々するかもしれないけどね。」 「…なんだその意味深発言は。」 ぐっと手を引かれ、エレベーターに乗る。エレベーターに乗っている時もずっと手を握ってくるので、振り払おうと手をブンブンと動かしたが、さらにギュッと握られた。それを振り払おうと更に大きく手を動かしたら思いっきり手すりに当たり、2人で痛みに悶えた。桐ヶ崎が目に涙を溜めて「振り回しすぎ。」と爆笑してる顔を見て、俺の鼓動はコトコトと忙しなく動いた。 身体の関係を持った日から約1ヶ月が経った。彼氏と別れたと次の日に報告されてからは、多分恋人は作ってないようだ。好きな奴がフリーで、自分の事が好きだと連日アピールされている。 この1ヶ月で1年分の桐ヶ崎を摂取したんじゃないかと思うぐらい、関わりが多くなった。しかも糖分高めの甘い日々で、過剰摂取で糖尿病になりそうなぐらいだ。今まで、俺が意識して適度な距離を保っていたのに、ずんずんと距離を詰めていかれる。 好きな奴に好きだと言われて、俺を気にかけてくれて、さりげないボディタッチをほぼ毎日のようにされている。それを拒否し続ける事が出来る程、俺の意思は強くはなく、徐々に絆されていっているのを自覚していた。

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