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第17話 事件②
刑事が帰った30分後に息を切らせながら桐ヶ崎が帰ってきた。俺が内容を要約して伝えると、桐ヶ崎はすぐに社員全員を集めた。自殺教授で逮捕された人物が自社のアプリを使用しており、警察が来たこと、そのため利用者からの通報は気をつけて対応して欲しいと指示した。
そして、俺と2人で問題の東時原のページをくまなく見る。
「……基本は12時過ぎてからのやり取り。相談者が立ち上げた掲示板は2〜3日前で検索にヒットしにくく、見ている人が少ない。そして、『解決済み』になってるから、通報もされなかったのか…。」
東時原の記録を見ると、うまく人の目につきにくい方法で人を選んでいた。
ステップアップは19時から23時ぐらいまでが利用者のピークであるが、相談件数は夜中がピークであることもある。寝る時になると、周りは暗く静かになり、良くも悪くも深く考えやすい。考えることで前向きになれると良いが、明日が来るのが怖くなってしまうこともある。そうなると、自分で抱えるのは辛くなり、相談したくなるのだ。
でも相談に乗ってくれる人は基本寝ており、起きている人が少ないため、掲示板の人数もピークに比べぐっと減り、1対1で相談していることも多々あった。
さらに2〜3日前となると、日々新着で相談が増えるため殆どの人は見ていない。
またステップアップは問題が解決すると、『解決済み』をタップして自分が立ち上げた掲示板を終わらせる機能があった。解決済みにすると検索機能から除外され、本人のマイページに飛ばないと内容は見ることができないようになっていた。
その機能のせいで、巧みにNGワードを避け、自殺教授をしていた東時原の記録は利用者に見られることなく、通報を避け続けれていたのだった。
「……くそっ」
俺が作ったアプリを悪用され、人の命を奪われてしまった。胸がキリキリと痛み、血が滲む程手をぐっと握りしめた。
「栗原。」
握りしめた拳の上を、ゆっくりと優しくぽんぽんと叩かれる。
「大丈夫。お前のせいじゃない。報道されたら大変だと思うが、一緒に乗り換えよう。」
桐ヶ崎の頼りになるその言葉に泣きそうになるが、それだけでは不安は拭えず、「ああ。」と生返事をしただけだった。
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