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第18話 事件③

『犯人は11人もの人物をほのめかし、自殺に追いやりました。一番若い子で13歳…。本当に悔やんでも悔やみきれない事件です。』 刑事が言っていたように、2日後、どの情報番組でも東時原容疑者の情報でもちきりとなっていた。 亡くなった人は13歳から41歳と性別も年齢もバラバラで、何人かは顔写真もニュースで流れていた。 『こちらが犯人が使用していたステップアップというアプリです。一般人に相談できるアプリとして多くの人が利用しています。』 俺らが作ったアプリも犯人の報道とともに紹介されることがあった。 『このアプリのおかげで、気軽に相談が出来るようになりましたね。』 『それは良い面ですが、やはり今回の犯人のように悪意を持って使う奴もいるということです。11人もの命が消えてしまう前に、公的機関に相談が出来ていれば、違う結果があったかもしれません。』 『そうですね…。でも、悪いのは犯人です。車が移動に便利な物から、殺傷能力のある武器に変化してしまうのと同じで、利用する人間の問題ですよ。』 アプリ自体は悪いとは言われていないが、一気に名前が全国へ知られることになった。好奇心か興味をもってくれたのか新規加入者が爆発的に増えたが、退会者も報道前に比べ増えていった。 「最近通報の数半端じゃないですね…。」 「マジっすね。今日も帰れる気がしない…。」 社員がぼそぼそと話しているのが聞こえた。 アプリ内で人権を侵害する言葉、誹謗中傷などを発見した時に通報できるようにしているが、報道後、通報の数が5倍になった。中には全然関係ない内容を通報していることもあり、深刻であれば、公的機関にお願いするなど、その対応に追われている。 この前のお祝いの雰囲気とはうって変わり、社内はどんよりと空気が重い。 「みんな疲れているのに悪い。報道が落ち着けば、少しずつ落ち着いてくると思うんだ。きつい時だが、よろしく頼む。」 「はい…。」 隣にいた桐ヶ崎がすかさずフォローする。俺はそれどころではなく、パソコンにかじりついていた。 社員が解決できない通報の処理、テレビや週刊誌等のマスコミ対応、アプリ機能の見直し、サーバー障害の対応、一部の被害者遺族からの提訴による弁護士の手配等に追われていた。 桐ヶ崎も手伝ってくれているが、企業向けのアプリの仕事もあり、沢山は頼れない。いや、頼っていいなんて甘い考えはダメだ。今はがむしゃらに仕事と向き合わないと。 昨夜は一睡もしていないが、全く眠くはならない。目がチカチカとして、頭痛がするぐらいだ。ピピッと携帯のアラームが鳴る。 13時の15分前。弁護士との方針決定の時間だ。もう一つ書類に目を通して、会議室に行かないと。 パソコンに送られた書類を確認しようとすると、画面が遮られた。手におにぎりを持っている。 「……邪魔だ桐ヶ崎。」 「朝も昼も食べてない。これ食べて。これはお茶。」 机の横にドンと置かれる。 「……さんきゅ。」 そんなに腹は減ってないが、食べないと解放してくれなさそうだったので、素直に受け取った。もう一個あるから、とパンも一緒に置かれる。 桐ヶ崎の手にはお菓子やらジュースやらが大量に入ったビニール袋を持っており、俺に食事を渡した後、社員1人ずつに配っていた。 それだけで、社内の雰囲気が明るくなる。 (本当頼りになるな…。) 目の前の事で精一杯な俺とは違い、全体を見る事ができる桐ヶ崎を尊敬する。いてくれてよかった。本当に一緒に会社をしてくれてよかった。頼りになる後ろ姿を見ると、眩しくて、かっこよくて、愛しくなる。 でもそんな事思ってる場合じゃない。 気持ちを切り替え、差し入れを食べながら、黙々と仕事をこなしていった。

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