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第7話
カツン、カツン、ガチャリ
部屋の扉をノックする音が響き、ギイッと扉が開いた。
扉の隙間から顔を出したのは、長身で浅黒い肌をもった端正な顔立ちの男で、肩に後れ毛がかかるくらいの中途半場な長さの黒髪をしていた。
初日だからかしっかり詰襟の制服を着ているが、なぜか似合ってはいない。辺境によくいるタイプの鍛え抜かれた体の持ち主で、顔つきは野性味を帯びている。
群れを率いるタイプというのは、もっているオーラが異なる。どちらかといえば生来からのアルファタイプだと認識させるような印象の男である。
彼は愛嬌のある笑顔を室内に向けて、頭を下げた。
「チース、本日付けで海運捜査局の副局長に配属なった、鹿狩統久です。お世話になりまーす。えーと、前は辺境警備隊の隊長とかしてました。まあ、お手軽にカガリンとか呼んでね。お土産に辺境名物巨大イカ焼き煎餅をどーぞ」
鹿狩統久と名乗った男は、少しだけしらけた様子の周りを見回して、すべったかなあと頭を軽く掻きながら、手にしていた煎餅の包みを近くの台に置いた。
今度の副局長はオメガであるともっぱらの評判だったのだが、目の前の男にはその特徴といわれるたおやかな特性がまったくない。
男の制服の胸元には5つの金のメダリオンと三つの銀のメダリオンが輝いている。それは、褒章であり実力を示すもので、局長である彼すら金を一つ取っているにすぎない。
事前情報でのオメガっていうのはガセネタだったか。
扉の方に目をやった桑嶋は、首を傾げて彼を再度眺めなおす。褒章の数だけ見れば、この男が副局長などに収まるだけの器ではないことがわかった。
しかも、総監の息子の局長と同じ鹿狩の苗字である。
総監となんらかの由縁がある人間なのは確かである。
桑嶋がチラと隣に座る局長を見ると、呼吸がひどく荒くいつもより顔が火照っているかのように見える。
いつもは堂々としている局長が、ひどく取り乱しているのを初めて見た気がすると考えながら、再度入ってきた男を見返した。
ほんのりだが、柔らかいような甘いにおいが漂ってきている気がする。
「すみません。かがりんというのは、局長も鹿狩さんですから、別の愛称を検討してください」
ドア側に近い席に座っているショーンが、来たばかりの統久へと丁寧な口調ながら果敢に言い放つ。
ショーンは、部署内でも真面目だけが取り得のイイトコのボンボンである。鼻につくタイプではあるが、悪いやつではないことは桑嶋もわかっていた。
「局長も鹿狩……?」
統久は一瞬だけショーンに言われた言葉に表情をこわばらせて周囲を見回したが、心を落ち着かせるようにか天井を仰いでふうっと一息ついた。
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