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第9話
「セルジューク、オマエやばいのに捕まったなあ」
桑嶋の同僚のフレッド・ゴルデスはからかうように、就業後のロッカーで声をかけてきた。桑嶋も統久から告げられた言葉への驚きで、その場ではそれ以上口がはさむことができなかったのだ。
運命の番だと宣言されたのだが、桑嶋にはまったく実感もそうと感じるものも何もなかった。
運命の番とは、アルファとオメガの最高の相性のようなもので、出会ったその時にお互いのにおいを感知して、運命だと識る相手のことである。
桑嶋は、副局長に就任した鹿狩統久という男に運命の番だと告げられたのだが、そこまでの発情するようなかおりには感じなかった。
確かに近づいた時に、ふわりと甘いかおりはしたが、番だと感じるような強いものではなかった。
鹿狩統久という男は、本当にオメガ性であるのかどうかも外見からはまったくわからないくらいに、すべてから卓越した存在感をもった男だった。
そしてそれを自分でも認識していて、自信家でありそれを有言実行してしまうような雰囲気をもっていた。
「フレッド。オマエはどう思う?あの副局長」
「ちゃらいイケメン。普通に出来る男の風味あるよな。それに、勲章の数が半端ないな」
ゴルデスからの感想に、確かにそうなんだけどと桑嶋はため息を漏らして首を振る。
「そういう外見的なことはなしにして。あれでオメガだっていうんだからな」
今まで会ってきたオメガ性の男は、アルファ性の男に媚びるタイプが多かった。オメガの男性は特に、男性にしては自我を抑えるような者が多く、薄幸そうな守ってあげたくなる者たちが多かった。
自分の足ではたっていられないというのを前面に押し出し、庇護欲をくすぐるタイプばかりである。
別にそれはそういう性なのだから、むしろ後に控えていて欲しいし、黙って守られていればいいのだと思う。
だからこそ、桑嶋は自分が狙っていた地位をそんなオメガ性に割り込まれたのが悔しかったのだ。
「まあ、辺境の荒くれた輩を束ねてたっていうんだから、それなりに統率力はあるんじゃないか。勲章の数も多いし。でも、結婚はできそうにないよね。アルファの女性探すのがいいんだろうけど、それも希少種だからなあ。どっちにしろ、プライドの高い俺たちアルファには相手にされないだろ」
勲章の数にこだわっているゴルデスの言葉に桑嶋はそうだろうなと頷く。
体格はいいが容姿端麗で売れ残っているという原因は、彼のあの性格が難をなしているのは明らかである。
「ああ。アルファの女も五人しかいないらしいし、既婚が多いんだっけ。一人は、局長の婚約者だっけか。もとより、女とオメガが結婚すること自体許されない世の中だしな」
少子化がすすみ、わざわざ子供をつくる能力をもつもの同士が営むことは、社会的損失と言われて後ろ指をさされることになる。
「アルファの女性を兄弟で奪い合いでもしたのかね。あの兄弟は、見た感じあまり仲はよろしくなさそうだ」
「ありえる。くそ、オレは当て馬かよ」
脱ぎ捨てたシャツを丸めながら、肩を聳やかす桑嶋の肩を慰めるようにぽんぽんと叩く。
「ごくろうさん。つか、アルファ性として、やっぱ自分より優れたオメガなんて欲しくはないよなあ。俺たちってば、ちやほやされてなんぼの性じゃない」
「まあな。かわいらしい子たちを庇護してあげたいってのがオレらの本能にはあるからな」
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