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第33話

 重い瞼を開くとすぐ近くに部下である桑嶋の顔が見え、統久は驚いたようにベッドから起き上がった。桑嶋は今朝出勤したはずだった。  にしても、アタマ痛ェ。しかもなんでコイツここにいるんだっけ。  統久は隣で眠っている桑嶋の赤い髪の毛をぼんやりとしたまま引っ張り、ヒートがすっかり収まっていることに気がついて眉を寄せる。  変な重苦しさもないし、体も調子がいい気がする。普通ならば、あと一週間は続くはずで、身体を動かすことすら苦痛なはずだ。 「……ッ、いてえ。あ、起きたか、なんか食う?」  考え込みすぎて思わず力いっぱい桑嶋の髪を引っ張ってしまっていたらしく、痛そうな表情で起き上がって統久の指を軽く手で制して包み込む。   なに、こいつ恥ずかしいことしてんだよ。  思わず腕を引いて肩を聳やかせると、統久は少し考え込んでから、 「あ、ああ……軽いもん口に入れたいかも。冷蔵庫に牛乳とシリアルがあるから……それでいいかな。それにしてもセルジュ、いつきたんだ?」 一瞬桑嶋は驚いたように目を見開き、少し困惑したように統久の顔をまじまじと見返す。 「もしかして……覚えてねえのか?」  少しだけ声のトーンを落として、確認するように問い返されて、統久は眉を寄せた。  ヒート中のことは、夢のような感じでおぼろげにしか覚えていない。あんな風になってしまう自分を覚えていたくなくて、無意識に記憶に残さないのかもしれない。 「ああ……。あ、えーと、俺、また襲ったか?ゴメン」  発情中に部屋に入り込まれたのであれば、統久には自分が何をするのか容易に想像はつく。 欲望のままにまた桑嶋を組み敷いたのだろう。  少し頭を抱えて、統久は溜息を漏らすとひどく罰が悪そうに桑島を見返す。 「マジで……訴えていいからな」  甲斐甲斐しく皿にシリアルを盛って牛乳を注ぐ桑嶋を見返すと、彼は首を横に振って困った表情をする。 「本当に、覚えてねえの、か」  恨みがましそうな表情でじっと視線を向けられて、統久は眉を寄せて頷く。  何か、大事なことを忘れているのか。  何故かヒートが収まっているが、感覚がいつもとは明らかに違和感があるから間違いない。  思い当たった事柄に、統久は目を見開いたまま、自分の項に指を這わせた。

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