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昨年度末(1)

 しょっちゅう東京へ出張に赴く智は、いつか椚田と共に出張なんてことにならないかと内心期待しているが、残念ながらそんな機会にはこれまでに一度も恵まれていない。それ以前に、椚田が出張しているところを見たことがなかった。  確かに、外で獲物を狩ってくるような役割より、家の中を守るような役割のほうが合っている気がする。全てを委ねてしまいたくなる頼もしさを持っている反面、細かいところまでよく気がついて繊細な印象を受ける時もあったり。男らしいからしくないか、なんてそんな単純な括りで、椚田の魅力は語れない、智は常々そう感じていた。  そんな時ついに、智が椚田と東京へ赴く機会が訪れた。  毎年東京で開催される展示会に揃って参加することになったのだ。周辺アジア諸国をはじめ、日本、欧米を中心とした製薬メーカー数百社が出展する大規模な展示会だ。もちろん二人きりでではないが、智の心は躍る。  展示会は三日間開催されるが、一日ずつ交代でなるべく多くの社員に参加させるのが通例となっている。そして幸運なことに、智は椚田と同じ日に参加出来ることになったのだった。  初めての大きな展示会、智は完全に場の空気に飲まれてしてしまっていた。大きな会場のスケールや訪れる人の熱気に気圧され、営業トークもままならない。一方椚田はというと、ブースに訪れる人々に、持ち前のコミュニケーション能力で巧みに相手の懐に入ると、いつの間にか自身のペースに持ち込み、見事なプレゼンを展開していた。本来こういった仕事は顧客との窓口である営業がやるべきはずなのだが。 「永倉、お前は何しに来てんねん。全部椚田がお前の仕事持って行ってもてるやないか」  案の定、上司から呆れられる始末だった。  展示会は十七時過ぎには終わる。最終日だとそこから撤収作業も行わなければならないが、智たちは二日目だったのでそこで解散、各自大阪へ帰る。せっかくだし少し実家に顔を出そうか、と思いついて、スマホを手にした時 「えーちゃんお疲れ!帰んの?」  椚田が手を振りながらやってくるではないか。慌ててスマホをポケットに戻した。 「はい、今日はお疲れ様でした!椚田さんのおかげで昨日の倍は人が来たと聞いてます」 「来場者数自体昨日よりかなり多いからなあ、たまたまやって。それよりこの後用事ある?」 「ないです!」  実家行きの案は秒で却下。 「ちょっと付き合って欲しいところが……」

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