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昨年度末(4)

 寮に着いてからももやもやは晴れず、椚田とまだ見ぬ彼女とのことばかり考えてしまう。どんな子なんだろう。年上かな、年下かな。可愛い系なのか、美人タイプなのか。今頃もう落ち合ってるんだろうな、彼女の部屋で手作りの夕飯でも楽しんでいるのだろうか、いやでもあれだけスイーツをたらふく食べたんだからもう食べられないよな、とか、くだらないことを延々と考えていた。 ──椚田は彼女をどんな風に、抱くんだろうか。  何が付け入る隙だ、どこまでいっても男の自分が付け入る隙なんかあるわけない。抱く姿も抱かれる姿も、想像出来ないししてはいけない気がする。  誰かのものになって欲しくない、とあんなに思ったのに、実はとっくに誰かのものだった。スタート地点に立つこともなく、智の恋は終わりを迎── 「いやもうええわ、グジグジグジグジ聞き飽きた」  翌日、いつもの社員食堂だ。加藤がうんざりとした表情で頬杖をついている。 「全部!お前の!想像やろが!」  デコピンされ、智は顔を顰めた。 「彼女おるんかすらほんまのところはどうなんか怪しなってきたんやろ?遠距離やなんやは俺らが勝手に言うてることやし、今日かてお前がデートしてる妄想をしてるだけやろ」 「そりゃまあそうなんだけど」  先日と打って変わって、智は恐ろしいスピードでとんかつ定食をヤケ食いしている。食べなきゃやってられない、そんな気持ちで。 「もうな、今ここで決めて。告るか告らんか」 「なんでそうなるんだよ」 「毎日毎日ウジウジを聞かされるこっちの気持ちにもなって?」 「……告るとかありえないだろ、男が男に」 「じゃあ諦めて。はい終わり」 「終わり、って」  何が終わりだというのだろう。  まだ何も、始まっていないというのに。  やっぱりスイーツバイキングの時にもう少し突っ込んで聞けばよかった。付き合ってる人がいるかどうかぐらい、誰だって世間話の延長で振る話題だったのに。でも再度二人きりになるチャンスなんて、たぶんもう二度とないだろう。

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