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そして現在に至る(1)
状況は何一つ変わっていない。智の目と心はまだまだ椚田を追い続けている。諦めることも、一歩踏み込むこともできないまま、宙ぶらりんのまま、想いはそこに在る。
アラサー男子が三年以上もの間、告白も出来ずに片想いを拗らせてるなんてとんだお笑い草だ、と加藤からはついに笑われる始末だ。笑われはするものの、茶化され揶揄われはするものの、智の想いを気味悪がったり否定したりは決してしない加藤は、口は悪いが実は良い奴だ、と智は内心感謝している。
今日は、天神祭か。一緒にラーメンを食べた夜のことを思い出す。あの時言っていた通り、椚田は今日明日と休暇を取っている。やっぱり、デートか旅行か。胸がズキンと痛む。痛ませる資格もないくせに。
智はといえば今日も東京出張だ。昼休みが終わり、簡単な打ち合わせを終えれば出発。そのまま一泊し、明日の夕方に東京を発ち、直帰という予定。
椚田のいないオフィスで、今頃彼女と……と悶々とするより、目新しい場所に身を置いている方が気が紛れるというものだ。偶然にも椚田の休暇と智の出張が重なったのは、良かったのだと思うことにした。
スーツケースを転がし、駅へ向かう。地下鉄に乗れば、イヤホンを耳に挿して、音楽を聴き始める。椚田から奨められた、最近人気急上昇中の若手二人組ロックユニットらしい。音楽に疎い智は全く知らなかったが、椚田が今ちょっとハマってる、と言うので教えて貰った。『この曲が特に刺さるねん』と椚田がしきりに言っていた曲は、あからさまに遠距離恋愛の切なさを歌った曲で、智はまた心が重く沈んだ。
やっぱり、どこまでいっても、椚田は彼女のことが好きなんだな。当たり前だけど。
遠距離恋愛がなんだっていうんだ、こっちはほんの少し手を伸ばせばすぐ届くぐらい近くにいるのに、触れられないんだからな。
物悲しくなって、智は音楽を止めた。
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