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第5話
僕はそれ以降、ますます彼の事が気になりだしてしまった。
些細な会話だったかもしれないけれど、一度体験してしまうともう後には戻れなくなる。
もっと話してみたい。
色々と聞いてみたい、彼の事。
下の名前も、年齢も、住んでる場所も。
いつかそんな日がくればいいな……とぼんやりと願ってはいたが、その願いが叶う日は意外にも早かった。
それは森下くんと会話をしてから六日後の事。
毎月第四水曜日に行われる店長会に出席するために、従業員用会議室に訪れた時だった。
このショッピングモール内に入る全ての店長が集まる会議だ。その受付をする為に並んでいたら、前方に綺麗な茶髪のあの彼を見つけたのだ。
(えっ、どうして森下くんがここに?)
僕があの横顔を見間違える訳が無い。
彼は壁に貼られた紙に指を滑らせた後、ニッと歯を出して笑い、ペンでマルを書いていた。
僕の前に並んでいた三人も同じようにマルを書く。
順番が回ってきた僕も、sateenkaariの名前を探しながら、森下くんのお店の名前もこっそり探した。
自分の店が見つかったので、マルを付ける。
随分と下の方に彼の店の名を見つけた。
まるでコンパスでも使ったんじゃないかっていうくらいに綺麗な円が書かれていた。森下くんが書いたのは間違いない。
……彼はもしかして、副店長なのだろうか。
店長が欠席の場合、二番手がこの店長会に出席しなければいけない決まりになっている。
てっきりアルバイトの子かと思っていた。
あんなに若いのに副店長だなんてしっかりしているんだな、と感心しながら会議室に入る。
ホワイトボードやプロジェクターが置いてあり、パイプ椅子が三つ並んだ長テーブルが、前から等間隔にズラっと並べられている。
皆がだいたい、真ん中を空かせて端と端に座っていた。
キョロキョロと森下くんの姿を探すと、壁側の隅に一人で座っていて、一つ空かした端の席は空いていた。
僕の足は勝手にそちらへ向かう。
けれど僕の前に並んでいた男性が、森下くんと同じテーブル席に座ろうと椅子を引いてしまったので、少々残念に思いながら溜息を吐いた。
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