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第20話
平日だけれど、映画館はそれなりに混雑していた。
初めて入った映画館だから詳しく分からないけど、カードで払うとシネマポイントが二倍みたいな、何か特典の付く日らしかった。
中から出てきた僕達は、興奮冷めやらぬ状態で近くのカフェに入り、それぞれパスタを注文した。
ナスとベーコンのトマトソースパスタを注文したら「たらこじゃなくていいんですか」と揶揄われた。
「良かったねー映画」
「はい。最後、ヒロインと結ばれて良かったです。もう戻ってこないかと思いましたから」
「実はレビュー見てたんだけど、賛否両論みたいだね。映像は迫力あるけど、内容は薄いとか」
「えぇ、森下くん、もしかしてレビュー見てから映画を観る派ですか」
「うん。でもそれに左右される事は無いかも。☆1だったとしても、俺が観たいって思ったら観るし。どう受けとるかなんて人それぞれじゃん」
森下くんはそう言って、パスタをフォークに巻き付けながら口へと運ぶ。
森下くんって、芯がしっかりしてるんだな。
僕とはきっと違う。
例えばだけど森下くんもゲイだという設定で、母親にそれを打ち明けてワンワン泣かれたとしても、この人だったら笑顔で「ごめんね、でもしょうがないじゃん」って言うだろう。
ちゃんと向き合わずに逃げてきた僕とは違う。
しばらく無言でパスタを口に運ぶ。
ドキドキする。
森下くんは左手にスプーンをもって、パスタを巻いたフォークをその上でくるくると回転させている。綺麗な所作。
ハッとして、視線を自分の皿に移した。
(い、いけない。また見蕩れてしまっていた)
今見ていた事を指摘されても、いい案が浮かばないから困る。
ちょっとビクビクしながら無心で皿の中身を空にしていくけど、幸いバレていなかったようだ。
紙ナプキンで口もとを拭いていたら二人分のコーヒーが運ばれてきた。
森下くんは僕の目の前にあった皿も店員に渡してくれて、すごく手際が良くて惚れ惚れする。
「すみません、ありがとうございます」
「ううん、全然気にしないで」
「あっ」
森下くんの口元に、トマトソースが付いている!
ど、どうしよう、可愛い!
できれば教えたくない!
「なに?」
「あ、ここ」
けど教えてあげた。
「付いてます」と自分の口の端を指差すと、森下くんはソースが付いた反対側の口の端を紙ナプキンで拭いたので、ふふっと吹き出してしまう。
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