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第21話

「いやいや違う、こっち」 「えーっなんだよ、恥ずかしいな」  ちょっと赤い顔をした森下くんは、ようやく付いている箇所を理解したようで口の端を吹き始める。  けれどほんの数ミリずれているみたいで、拭っても拭っても赤いソースが取れる事はない。 「あーもうちょっと上、いや右……もう、違いますって」  僕は椅子から立ち上がり、テーブルに片手を付き、森下くんの口元におしぼりを当てた。  その瞬間、ぶわっと鳥肌がたつ。  おしぼり越しだけど、彼の肌の弾力を指先から感じる。  どこか見透かしているようなビー玉のような澄んだ瞳、柔らかそうな睫毛、そして薄い唇。  何回かおしぼりを上下させると、ふにふにと唇もいっしょに震えていて。  隣の席のカップルが、こちらを見てクスクスと笑った声が聴こえた。  僕は目を見開きながら冷や汗をかく。  僕はいったい、何をやっているんだっ。 「あ、取れたみたいです」  普通に普通に、こんなのよくある事ですよって顔をしながら席に座る。  少々ずれてしまった眼鏡を元の位置に戻す為、指で眼鏡を押しつつこっそりため息を吐いた。  僕の心臓がねぶた祭りを起こしている。  とても森下くんの顔を直視できずに、ひたすら祭りが終わるのを待った。 「ありがとー。なんか赤ン坊の気持ちになったわ」  森下くんも何でもないという風にそう言ってくれて気が楽になった。  というか、嫌な顔されなくて良かった。  森下くんはちゃんと、僕が拭き終わるまでじっと動かずに待っていてくれた。  カップの中身を空にして店を出て、約束通り森下くんの服を選びにいくことにした。  参考までに好きなブランドやテイストを聞いて、それに合ったお店を知っている限り回ってみる。  流行りのシャツやジャケットを着せてみるけど、しかしどれもいまいちパッとしない。  格好いい事には代わりはないんだけど。  結局ファッションビルを出て、原宿の竹下通りを抜けたところにあるセレクトショップに行く事にした。  世界中からセレクトしたアイテムが揃っているし、そこだったら森下くんに似合う服が見つかるかもしれないと思ったのだ。

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