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第22話
竹下通りはあんなに混雑していたのに、一本脇道に逸れると途端に人がまばらになる。
ここの通りは学生の頃よく通っていた。
一見普通のアパートのように見えて、実は二階が古着屋になっていたり。
あまり人が歩いていないと、自分だけしか知らないように思えてちょっと優越感に浸ったりもした。
「こんなところ初めて通ったな。お店なんてなさそうに見えるけど」
「実は多いんですよね。あんまり都内に出て買い物はしないんですか?」
「うーん、服にこだわりはほとんど無いから、勤めてるSCの中で適当に済ませちゃう事が多いかな。今度、店長のお店にも買いに行ってもいい?」
「いいですよ。特別に家族割りにしてあげますよ」
「えっマジで? 結構安くなるの?」
「なりますよ、でも本部にバレたら大変なので、やっぱりやりません」
そんな風に適当に会話をしながら、ビルの外側に取り付けられた狭い螺旋階段を上がり、洋風チックの重い鉄の扉を開いた。
中を覗くと、天井からは蝋燭型の照明が付いたシャンデリアがぶら下がっていて店内を照らしているが、ほんの僅かな光なので全体的にほの暗かった。
壁も黒くて、ドラキュラでも住んでいそうな雰囲気だ。
森下くんは、キラキラと目を輝かせながらラックにズラッと並べられたシャツやデニムを一つずつ順番に見ていった。
「俺、なんかこういう店好きかも」
それを聞いて僕もすごく嬉しくなる。
なんとなく雰囲気が、森下くんに合いそうだなと思ったんだ。
デイリーファッションがテーマのこのお店にはストリートからヴィンテージものまで幅広く置いてあるし、きっと気に入るのが見つかるだろう。
「店長、これどうー?」
試着室から出てきた森下くんは、ラルフローレンのチェック柄のシャツを羽織って、リーの極太デニムパンツを履いて紫色のリングベルトで止めていた。
細い腰と長い脚がより引き立つ。
そのままミラノコレクションでランウェイしちゃってもいいくらいに格好良い。
僕はくらくらと目眩がした。
「に、似合いますよ! すごく!」
「本当? じゃあこれ両方買っちゃおうかなー。予算オーバーだけど、店長が似合うって言ってくれたから奮発!」
森下くんはタグを見てはしゃぎながら、シャッ! とカーテンを引いた。
僕はそこにあった皮ばりの椅子にへなへなと腰かける。
ドキドキと、僕の心臓が早鐘を打つので胸に拳を当てて耐えていたら、店員に「大丈夫ですか?」と心配されてしまった。
大丈夫じゃないです、全然。
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