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第23話
「いい買い物が出来たよ店長。今日は本当にどうもありがとう」
「いえこちらこそ。僕も気になっていたお店に行けたので、大満足です」
いつもの駅で降り、駅ビルの中で食材を買い、森下くんのアパートへ向かう。
夕飯は手料理を振る舞ってくれるというので、お言葉に甘えた。
まだまだ夜は長い。
僕は上機嫌で、両手に持った袋をブンブン振り回したい気分だ。
流行りのタピオカジュース屋さんに並んじゃったりして。
なんだか本当に恋人同士のデートみたいで楽しかった。
タピオカは昔から好きだったんだって言い張る森下くんは、一段と幼く見えて可愛かった。
「店長と出会わなかったら一生あんなショップ知らなかっただろうな。本当に嬉しい。得した気分」
森下くんはショップ袋を高く上げて、心底嬉しそうな表情をする。
それを見て僕もドキドキし、なんて返事をすればいいのか分からずに、ひたすら地面に視線をさ迷わせた。
僕も、出会えて良かった。
森下くんがあの時、声を掛けてくれて本当に良かった。
……照れずに言えるだろうか、これぐらいは。
「あ、うん、僕も」
「そういえば店長のところは、ロープレ大会は誰が出るか決まったの?」
僕の小さな声は森下くんのバカでかい声により、見事にかき消されて拍子抜けする。
いや、バカでかいは失礼ですね。
思わずクスクスと笑いが漏れる。
君と話していると、たまにこういうシーンがあるのだ。
それも面白いからいいんだけどね。
「あっ、ごめん、いま何か言おうとした?」
「いえいえ、何も。はい、ロープレはうちの二番手が出ますよ」
ロープレとは、デベ主催の接客ロールプレイングコンテストの事だ。
SC内店舗で働くテナント従業員の資質向上を図るもので、毎年年明けに開催される。
ファッション部門と食品・飲食・サービス部門に分かれて競技を行い、優秀賞を取れればSC内で使えるギフト券二万円分が貰える。
各テナント一人ずつ代表者を選び、当日参加者やデベのお偉い方々の前で接客を披露しなくてはならない。
うちの会社は、大抵二番手か三番手に参加させる事が多い。
僕も過去に何回も参加したら、正直あの大勢の中でいつも通りに接客をできるかと言われたらノーだ。
緊張して、何を発したのかはほとんど覚えていない。
「うちも決まってさ。なぜか俺になっちゃったんだよね。いろいろと経験しとけって言われちゃって」
「はは。二番手の宿命ですね。でもいいじゃないですか。きっと森下くんだったら優勝狙えますよ」
「前勤めてたところではロープレ大会なんて無かったのにさ。超面倒臭い」
「僕も見に行く予定ですから、頑張って」
「えっ、店長見にくんの? じゃあ頑張ろ」
えらい変わりようにまたしてもずっこけそうになる。
適当に言ってしまっただなんて言えない。
テナント営業中に行われるから、八代くんの競技だけを見たらすぐ店に戻る予定だ。けど折角だから森下くんのロープレも見たい。
あ、そうだ、その日僕は仕事を休みにすればいい。
シフト管理も僕がしているから容易いことだ。
森下くんの相手役に嫉妬しないように、今から自分に言い聞かせねば。
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