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第24話

 会話が途切れて、しばらく無言で歩いていた。  左手には僕らが働いているSCが見える。  建物が綺麗にライトアップされていて、既に閉店時間ではあるけど、遠くの立体駐車場を見ると車が何台も止まっているのが見えた。  従業員専用の出入り口に近づいてくると、何も心配する事はないのに、もし店の人にあったらどうしようかとソワソワした。  特に八代くん。  ここ最近、僕が浮き足立っている事に気付いている彼が、僕らが二人でいる所を見たらきっと揶揄ってくるに違いない。  絶対に会いませんように、と念じながらそこを通り過ぎた。  誰一人知り合いに会う事もなくホッとする。  そんな時、森下くんは口を開いた。 「店長は、結婚とかはしてないの?」  ギュッと唇を噛んだ。  いつもより低く聞こえる森下くんの声が胸に響く。  今日一日、恋愛に関してお互い全く触れなかった。  わざと触れなかったというよりかは、そういう話にならなかったというか。  もしかしたら、僕が実家に帰っていないという話を気にしてあえて触れないようにしてくれていたのかもしれないけど。 「……あぁ、はい、してませんよ」 「予定も無いの?」 「無いですね。付き合ってる人もいませんし」 「へぇー。そうなんだ。ずっと?」 「……んー、そうですね」  歯切れ悪く答えると、森下くんはやっぱりそれ以上は詮索して来なかった。  嘘を吐いた。誰かと付き合った事なんて一度も無いのに。  見栄を張ってしまう自分が滑稽で笑える。  素直に言えたらいいのに、他人と少し違う部分があるとつい隠したくなってしまう。  バカにされたらされたで、それでもいいと思う自分と、バカにされたら怖いと思う自分が天秤にかけられて、どちらに傾くこと無く、ゆらゆらと揺れている。  森下くんはまた黙ってしまったから焦った。  自分からは何も話さない僕を見て、自分を信用していない人として映っていたらどうしよう。  そうじゃないのに。  僕は君が好きだから、いい友達として傍にいたいのに。  僕はゲイで、普通の結婚は無理なんです、と言おうと思っても、乾いた喉からは何も出てこない。  ――あ、そうか、僕も同じ事を訊けばいいのか。  結婚、する予定があるのかどうか。  今日一番胸がドキドキした。  冷や汗まで出てくる。  森下くんは、きっとそれを訊いて欲しいからまず僕に振ったんだ。  もし「近々結婚する予定でさ」って笑顔で返されたら、僕は果たして笑って演技ができるのだろうか。  涙が出たりしないだろうか。  少し怖いけれど、僕の気持ちが大きくなる前に、分かるなら早く分かった方がいい。  僕は蚊の鳴くような声を出した。 「も、森下くん、は、けっこん、とか」 「あれっ? 電気点いてる」  ハッとして視線を移すと、もっと遠いと思っていた森下くんのアパートがすぐ目の前にあった。  そして彼の言うように、部屋には明かりが灯っていて換気扇も回っている。  明らかに中に人がいる気配がした。

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