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第61話 ほだされる店長*
僕はなけなしの力を振り絞り、胸の位置にある森下くんの手を掴む。
「あの、泡を流したい、です」
懇願してみせると、森下くんは一度僕から手を引いてレバーを捻り、シャワーのお湯を出した。
細かい飛沫が僕の体にあたるけど、角度があるから全てをしっかりと洗い流せない。
換気扇を回していないので、ますます湯気でいっぱいになっていった。
「シャワー出してれば、大丈夫だよ」
森下くんは泡だらけの手を再度僕の胸に持っていき、そこをゆるゆると撫でさする。
「……ん」
僕の声が、近所に聴こえてしまうのを危惧したようだけれど……そうじゃないのに。
こんな所でいけないことをするだなんて聞いてない。
いや、ならばどこでだったら僕は良かったのか。やっぱりこうなることを期待していたんだと、嫌でも気付かされてしまう。
ついに森下くんのもう一本の手は、僕の足の間の方へと伸びていった。
タオルごしにそこに手を置かれ、びくんと体が跳ねる。形を確かめるように、指を動かされる。
もう恥ずかしいくらいにそこは勃ちあがっていた。
「──あ……ぁっ」
「店長。俺、店長のこと、好きだよ」
嫌だ。そんなふうにやさしく見つめないで、言わないで。
愛しさで胸がいっぱいになってしまう。
森下くんが大好きでたまらないと言いたくなってしまう。
泡と湯が染み込んだタオルの下に手を忍ばされ、直に握られただけで達しそうになってしまった。
はぁっと熱っぽく吐いた息は、シャワーの音よりも大きかったかもしれない。
胸もそこも、少しずつ滑らかになる指の動きに合わせて、僕の性器からも先走りが溢れる。
敏感すぎる僕の体は、森下くんの指でいとも簡単に蕩けていった。
「あっ……あ、あ……も……」
「すごい……凄く色っぽいよ」
「ん、そんな……に、言わないで……ください……」
「俺が好きだから、ココ、こんなにしてくれてるんだよね?」
首をフルフルと横に振る。
こんなことしてはダメだとか。恥ずかしいことをしてるからやめないととか。
そんな理性は軽く吹っ飛んでしまった。
今はもう、快楽のことしか考えられない。
あまりにも鋭い快楽に、僕はいつか、森下くんなしでは生きていけなくなるんじゃないかと心配になってしまう。
涙を滲ませながら、せりあがってくる欲求にとうとう耐えきれなくなった。
「……ん、……っ」
親指の爪先で軽く引っかかれたのと同時に、押し出されるみたいに飛沫が飛んだ。
タオルと森下くんの手の中に全てが迸った。
頭がぼうっとなる。
この熱気と、今更ながらの罪悪感を感じて思考がうまく回らない。
森下くんはシャワーで僕の体を隅々まで洗い流し、綺麗にしてくれた。
「顔真っ赤。大丈夫?」
「す、すみません……もう、あがりたいです」
少々貧血になりながら訴えると、温泉の時と同じように着替えなどを手伝ってくれて、いつも寝ているであろうベッドにまで運んでくれた。
「あの、僕は床でいいので、森下くんがこっちを使ってください」
「いいって。眠かったら寝ていいよ。俺はせっかくお湯はったから、湯船に浸かってくるよ」
森下くんはやっぱり、何事も無かったようにニコッと笑って、再びバスルームへ戻っていった。
僕は結局、ベルガモットの湯船には入れなかった。
いや、そんなことで惜しくなっている場合じゃないだろう。
僕は大きなため息を吐いて頭を抱えた。
ものすごく、気持ちが良かった。
彼に触られる度に心が潤っていくような気がする。
こんな曖昧な関係、やめなくちゃならないのに。
僕はずっと流されている。今日だけ、今回だけ。
そう言っていつまで、自分を騙し続けるのか。
自分を責めて罪悪感を少しでも減らそうと試みたが、いつのまにか深い眠りに落ちていた。
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