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第8話

「宮﨑は、嫌な奴だ」  合流するや否や、悠はそう呟いた。お互いスーツではなく私服で、悠は会社でしている眼鏡をしていない。「伊達なの?」と尋ねると、「そこまで悪くないから」と素っ気なく答えて、俯いている。 「ね、悠」 「……」 「今はね、宮﨑と東雲さんじゃなくて、檜山さんと悠なの。わかる?」 「……」  悠はしばらく目を逸らしていたけど、そのうち、「はい」と小さな声で頷いた。 「そう、これから悠は、誕生日のお祝いに、たっぷり可愛がってもらえるんだからね、良かったね」 「……っ、そ、そういう言い方、は……」 「されたかったんでしょ? 気持ちいい事」  小さな声で囁いてやると、悠は顔を赤くして黙ってしまった。かわいいね、と彼の腰に手を回す。拒まなかったから、俺は彼を連れてホテルへと入った。 「ど、どうして、」 「ん?」 「檜山、なんですか……」 「ああ、悠の名前はわかりやすいもんね」  ホテルの部屋に入って。上着をハンガーに掛けたりしてる間、他愛も無い話をする。 「檜山はね、俺の初めての彼氏の名前」 「……」 「あ、別に深い理由は無いよ。偽名なんて何でもいいじゃない、後腐れ無かったら。追いかけられて面倒だなって思ったら変えてるぐらいのものだから、気にしないでね」  へらへら笑いながら、バスルームを覗く。 「今日は、ちゃんと一緒に体、洗おうか」  前回は処女騒動で有耶無耶になってしまったから、今日はしよう。微笑むと、悠は目を逸らしたまま呟く。 「……檜山さんは、」 「うん」 「……仕事で、僕に、しごかれて、その、恨みとか、無いんですか」 「え、有ったらこんな事してないと思うけど?」  何を当たり前のことを聞いてるのか、よくわからない。 「で、でも、僕、檜山さんに、キツイこともたくさん言ってるし、」 「うん、そうだね。でもそれは仕事する上で必要なことでしょ? 確かにね、『東雲さん』は、言葉の選び方とか、ちょっと下手だとは思うけど」 「う……」 「でも、一生懸命やって間違えてるのはわかってるから、大丈夫だよ。他の人がどう思うかは知らないけど、俺は、『東雲さん』が仕事に真剣で、部下の教育にも真面目で、その上で不器用な事してるだけだって認識してるから」  悠は確かに、ちょっと対人関係が下手だ。でも俺には、それを許容してやれる余裕がある。おまけに本当は可愛い事を知ってる。だから恨んだりなんてするわけがない。  例えば子犬がキャンキャン吠えてたって、必死に吠えてて可愛いね、と思うだけだ。まあ、犬が嫌いなら煩いと思うのもわかる。それで、俺は悠が嫌いじゃない。 「だから、悠に誘われても、断らないんだよ」  ほら、シャワーしよ。  手を差し出す。悠は困ったように壁やら天井やらに視線を泳がせて、それからおずおずと、俺の手を握り返した。 「んん、ふ、ん、……んっ」  裸で体を絡めあって。密着しながらキスをする。何度も、何度も。悠はキスをしただけで蕩けてしまうと知っているから、じっくり時間をかけて、理性を溶かしていく。  やがて悠は前と同じ、大人しくて素直な、可愛い子へと変わっていく。それが、悠の本当の姿だ。 「檜山、さん」  甘えるように名前を呼んでくる。それに答えるように何度もキスを落としてやりながら、ボディソープを手に取った。 「洗ってあげるね」 「えっ、あっ、ぁ……」  軽く泡立てて、手の平で直接悠の身体を撫でる。ヌルつく手はよく滑って、くすぐったいのか悠は震えながら俺に身を預けていた。 「悠さ」  体を撫でる流れで、そっと悠の胸に触る。 「ここ、自分で触ったりしてる?」 「……?」  乳首を指で撫でてやる。そこは緩慢な反応しかしなかったから、してないことは返事が無くたってわかる。だから、耳元で囁いた。 「ここね、可愛がってあげたら、女の子みたいに感じるようになるから、これから自分で触ってあげてね」 「え……」 「そしたら、俺も触ったげる。気持ちいいこと増えるかもって考えると、興奮するでしょ?」  はむ、と耳を甘噛みしながら胸を撫でる。期待を煽るように撫で上げるけど、それ以上はまだしてやらない。悠は顔を赤くして、素直に「はい……」と小さく頷いた。  これで自動的にこの関係が続くのを了承してしまったことになるんだけど、悠は気付いてるんだろうか。まあ俺はどっちでもいい、楽しければそれで。いい子だね、とキスをしてやる。悠はそれを素直に、一生懸命受け入れながら、俺に縋り付いてくる。  キスをしながら、手を下に。 「んっ」  する、と手を滑らせて、悠の後ろに指を這わせる。この前は怖がって逃げられたけど、悠はびくっとしただけで今度は逃げなかった。だから、そのまま指を押し込む。 「ん、んん」  キスをしながら、悠が悶える。逃げないように腰を押さえながら、慣らすように指を動かしてやると、「は、」とキスから逃げて、悠が俺の名を呼ぶ。 「気持ちいい?」 「……っ」  こくん、と頷く悠に気を良くして、ナカを探る。彼のイイところはもう把握してるわけだから、そこをいじめてやるとすぐに悠は泣きそうな声を出しながら、俺にぎゅうぎゅう抱き着いてきた。可愛いけど、少々やりにくい。 「……ああ、縛って欲しいとか、言ってたよね」  不意に思い出して呟くと、悠が息を呑んだ。

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