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第4話

無心に考え事をしていた間に近くなっていた距離。 フェンスの近くに居た彼は俺の背後の扉を後ろ手に締め、カチャリ鍵を掛けた。 「すみません。今迄貴方の周りであった事は全て俺がしました」 嗚呼、アレね。 あのやたら私物が新品に変化したヤツな。 「あのさぁ、もしかして新手の苛めか?俺何か気に障る様な事した?」 って、今が初対面だから身に覚えはないが。 「いえ、苛めではありません」 なら、何だ? それ以外は考えられないぞ。 「先輩の私物を盗んで新品に交換した理由はコレクションです」 ん?コレクション? 「今迄頂いた私物は全て先輩専用の倉庫に大切に保管しています」 えっと、んんん? 「特に体操服は就寝時に重宝させて頂いています」 「えっと就寝時って何に使ってるんだ?」 まさか……オカズ…とか言わない…よな? 「はい。いつも抱き締めて寝てます。先輩の匂いがしてグッスリ眠れます」 あっ、抱き枕的役割をしてるんだね。良かった変な事に使われてなくて。 「今日はまだ何も頂いておりませんので、何か貰っても良いですか?」 いや、今迄勝手にお前が貰ってただけであって俺はやった覚えないぞ。 何故毎日私物を提供せねばならない。 ていうか、物凄く気になる事があるんだが。 「なぁ。新品ってどうやって準備してるんだ?それとどうやって交換してる?」 毎日気が付くと新品になっているが、人影を見た事はない。 交換された物は数え切れない位ある。 あの量を用意するには相当の資金が必要な筈だ。 尚且つ続行されそうな勢いだし、コイツお金どうやって遣り繰りしてるんだ? 「安心して下さい。不正に得たお金で用意してません。そんなの先輩に使わせるワケないでしょ?勿論全て俺のお金で用意してます」 自分のお金って、金持ちなのか? 「私物の交換はですね、先輩がいつ何処で何をするか把握してますので簡単です。常に替えを用意してます。因みに交換しているのは三浦先輩ですよ。先輩もよく知ってるでしょ?」 「はぁあぁぁああ?三浦ぁ?三浦ってあの?」 「そうです。先輩の親友の三浦さんです」 マジか。 三浦こと三浦壮嗣(みうら あきつぐ)は高校になって初めて出来た友人だ。 色々趣味合うし、話しやすくて明るい良い奴。 入学式の時に仲良くなって、凛茉と一緒に居ない時は殆ど連んでいる。 「いつも一緒に居るから頼んだんです。最初は断られましたが、根気強く頼んだお陰か、今では正式にお仕事としてこなしてくれています」 えっと、何言ってんのかサッパリなんだが。 「仕事って?」 「はい。ウチの社員として雇いました。卒業後は営業に所属予定です」 うん。 ついていけない。 誰か説明下さい。 会話の内容を理解出来ず固まっていたら、青葉が詳細を教えてくれた。 青葉の父親は製薬会社の社長をしながら他にも複数の会社経営をしている。 母親はアパレル系の仕事で活躍中。 祖父は政治家で、祖母は生け花・日本舞踊・料理の教室を開いている。 因みに青葉自身も学生をしながら会社経営の手伝いをしている。 それはお金に余裕もある筈だ。 三浦は将来青葉の父親の製薬会社の営業に就職決定。就職難な時期に将来安泰とか羨ましい。 今は日給1万円で俺の私物をコッソリ新品と交換している。 月に約20万も貰ってんのかよ。 三浦お前自分の小遣いと将来の為に俺を売ったな。 絶対後で文句言ってやる。 「先輩」 ぅっわ、ちょっ、ビビった。 突然触られた頬。 そのまま指先で耳元の髪をかき上げられ 「……っぁ」 ゾクリ震えた。 「先輩。声可愛いです」 ……っ。 うっとりした表情艶っぽ過ぎだろ青葉。 「ねぇ、先輩」 なんだ? 「…………キス…して良いですか?」 ……………………………………。 うん。良いワケねぇだろうが。 「ダ…メ、ですか?」 「…………先輩…」 うっ、あんま見んな。 そんな泣きそうな顔で言われたら、俺が苛めてるみたいじゃないか。 でもだからといって絆されてはいけない。 俺には可愛い天使が居るんだから。 「悪い。俺今物凄く可愛い恋人居るから、だからお前とは付き合えない」 素直に断った。 「………………知ってます」 哀しそうに歪められた顔に何故か感じる罪悪感。 気にせず話を続けた。 「お前スッゴイ綺麗な顔してるし格好良いからさ、俺じゃなくてもスグ良い奴見付けれるって」 この顔だったら選り取り見取りだろう。 何もしなくても老若男女関係なしに声掛けられそうだし。 将来は多分社長だよな? そんな雲の上の存在が俺と付き合うメリットなんてない。 デメリットのみだ。 「…………なんでそんな酷い事言うんですか?」 「えっ、だって俺恋人居るし、男だし、俺じゃ釣り合わないし、それに……」 「それに、何ですか?」 「…………お前の横立ったら…俺絶対お前の引き立て役じゃん」 お前みたいな美形には分からないだろうが、平凡な奴はな美形と並ぶの苦手なんだよ。 顔の大きさ・身長・脚の長さ・スタイル全てにおいて比べられるに決まってんだろうが。 「……先輩」 なんだ?なんかイヤミか? 「先輩って鏡見た事あります?」 なんだよ。そんなの朝洗顔後目に入るだろ? 「あるけど、別に普通の顔だろ?まぁ、見れない程酷くはないと思う。……多分」 んあ?何変な顔してんだよ? まさか普通なんて痴がましい。お前なんて虫ケラ以下だとでも言いたいのか?美形に言われたら凹むぞ? 「なら、俺と白水先輩と三浦先輩の顔どう思いますか?」 ん? 「青葉は最上級の男前で、凛茉は最強の天使で、三浦は上の中位かな」 「…………あ…りがとう…ございます……」 あっ、本人目の前に素直に言い過ぎたか。 片手で顔隠して下向いてる。 スッゲェ顔真っ赤。 「なら、 芸能人やモデルは?」 「んなの可愛いと綺麗と格好良いしか居ないだろ?」 「お笑い芸人とかは?」 「う~ん。たまに格好良いのも居るけど中から平凡が多い、かな?」 何でそんな事聞くんだ? 突然黙り込んだ青葉。 どうした? 「やっぱり先輩は自分の顔を見てません」 はぁ? 「先輩きちんと美的感覚あるのに何故分からないんですか?先輩が平凡だったら、世の中の人間全員死にますよ?」 はい? 「先輩は」 青葉が話してる時だった。 キーンコーンカーンコーン…チャイムが鳴った。 って、ヤバッ。授業始まる。 「ごめん、続きはまたな?」 慌てて教室に戻った。 放課後靴箱に 『先輩は世界で一番綺麗です』 手紙が入っていて やっぱりアイツ目ぇ悪いだろ。 本気で眼科を薦め様かと思った。

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