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一章

「パンッ!」という渇いた音がエレベーター内に響いて、自分が殴られたことを知った。 「……何を、している…」 ネクタイを戻しながら怯えたような震え声で言うのに、逆に気持ちが煽られていく。 殴られ切れた口の端を拳で拭い、 「……そうやって、なんでも穏便に済ませようとするあんたが、」 再びネクタイを引き戻して、 「……カンに触るんだよっ!」 貪るようにも唇を奪った。 「…ん、あ…やめ…」 聴こえない素振りで後頭部を抱え、さらに深く口づける。 「……やめ…て、くれ…」 哀願するようにますます震えて小さくなる声音に、 「……やめない」 一言を告げて、階下に着いて開いたエレベーターから無理やりに腕を引っ張った。 「放してくれ…っ」 抗う彼の、その耳元に、 「……まだ誰か他にも社内に残っているかもしれないのに、聞かれてもいいんですか?」 囁きかけると、観念したようにふっとおとなしくなった。 男子トイレに連れて行き、個室へ二人で籠った。

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