20 / 96
三章
ーー課長はあれ以来、あまり仕事を頼んで来なくなった。
たまにどうしてもやり取りをしなければならない時にはひどく事務的で、取りつく島もなかった。
そういう対応をすることで、向こうはバランス関係を保とうとしているのかもしれなかったが、そんな関わり方が以前もそうだったように面白いはずもなく、
皐月課長が一人で残業で居残っていたのを見越して、一度は帰った素振りで、また会社へと舞い戻ったーー。
「……課長、」
呼ぶと、驚いた顔でこちらを見て、
「……各務…おまえ……」
と、声を詰まらせた。
「……。……帰ったんじゃなかったのか…」
沈黙の後で、呆然と口にするのに、
「帰ったふりで騙し討ちをしたんです」
答えて、
「あなたが、あんまりにも俺を避けるので」
つかつかとデスクに歩み寄った。
「……寄る、な…」
後ずさろうとする課長のネクタイの先を掴んだ。
「俺から逃げるなと言ったはずですよね?」
「…う、ぐっ…」
掴んだネクタイをぐいっと引くと、彼は苦しげに喘いで、
「…よ、せ…」
と、拒絶の言葉を発した。
ともだちにシェアしよう!