66 / 96

五章

ーーホテルを出ると、もう日が暮れかけていた。 歩き出しながら、 「寒くなると、暗くなるのも早いですよね」 話しかけると、 「ああ…」と、気のない返事をして、 それから「……もう、帰してくれ」と、呟いた。 「そんなに、帰りたいですか?」 「ああ…」とまた、生返事が戻る。 「帰る前に、そこの公園でもう一度休んで行きませんか?」 昼間に訪れた公園に寄り、街灯の下のベンチに座った。 昼には親子連れなどであれほど賑わっていた公園の中は、日が暮れると人もまばらで静まり返っていた。 騒いでいた子供らの代わりに、カップルたちの姿が増えて、暗がりのベンチでベタベタとじゃれ合っていた。 ふと見ると、目の前のベンチにも恋人どうしがいて、キスを交わしているのが目に入った。 気づいたらしい彼が無言で目を逸らして、 「恥ずかしいんですか?」 訊くと、 「別に……」 と、顔をうつむけた。

ともだちにシェアしよう!