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六章
「送って行きますよ、家はどこなんですか?」
尋ねると、寝呆けたままでボソボソと住所を口にして、それをナビに入力した。
スーツの上を脱いで倒したシートで眠る彼に掛けてやり、アクセルを踏み込んだ。
すぅすぅと寝息を立てているのを横目に見ながら、車を走らせた。
あれほど責め立ててやったのに、よくもそんな無防備で寝られると感じる。
「……バカですよね」
ふと呟いて、本当にバカなのは彼なのか、それとも自分なのかわからなくもなってくる。
ただひとつわかっていることがあるとしたら、
それは自分が、彼のことをバカなくらいに愛していて、虜《とりこ》まれているということだけだった。
俺が、あんたを手の中に陥《おとしい》れたんじゃない……俺の方が、あんたの手に堕ちているだけだ……。
……ナビが目的地に着いたことを知らせて、車を降り相変わらず起きない課長を助手席から抱え出した。
エレベーターに乗り階数を聞いて、答えた階のナンバーを押した。
肩に腕をまわさせて背負うようにも歩いて、見つけた部屋番号のドアをカバンから探ったキーで開けた。
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