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完結編:①

 昨年のクリスマスより、やたらと俺の家に入り浸る様になった秋山。 「惣さん、今日のバイトって夕方からですよね?」 「そうだけど。何でお前が知ってんだよ」 「え? そりゃあだって、惣さんの事ですから」  惣さんの事なら俺、何でも知ってますよ?  そう言って秋山は、老若男女問わず腰が砕ける様な美麗な笑みを見せた。 ◇ 「うっ…ぁ、あ、くっ、」 「はまんひないれふらはい」 「あ"っ、咥えながらっ、しゃべんな!あっ、あっ!」 「ひゃんほほえ、らひへ?」 「ばっ! あっ、ひぁっ!?」  器用に弱い所ばかりを狙う秋山の舌遣いに、俺の我慢はちっとも追いつかなかった。 「あっ、あ! あっ! ぅあぁあッ!!」  イク瞬間思わず秋山の髪を鷲掴むが、そんな痛みもなんのその。秋山は仕上げとばかりに最後の一滴まで俺のソレを搾り取った。 「おま……飲むなって言ったろ」 「んく。だって、俺に取っちゃご馳走ですもん」 「ご馳走て…AVの見過ぎたろ」 「惣さんってばそーゆーの見てんだ?」 「ばっ!? 揚げ足とんな!!」 「あはは! 赤くなった!!」  かわいー! かわいー! と笑う秋山の頭をバシンと殴り、俺は逃げる様にして風呂場へ駆け込んだ。 「………」  溜息とも呼べない様な小さな息を吐く。もう今日が何度目か分からないほど、俺は秋山の口や手で奉仕されていた。  ふらっとウチに来て飯を食っていくだけの日もあれば、泊まり込みでしつこく触れたり、或いは今の様にバイトへ行く前に短く触れて来ることも多々ある。  けれど俺たちの間に恋人なんて繋がりは無い。あのクリスマス以降さらに頻繁に顔を出す様になった秋山は、迷わず俺に触れる様になった。そうして触れるクセに、「好きだ」とか「付き合って」だとかの言葉はその口から出ることは無かった。  そう、何も無い。  その何もかもが無い中に、以前まではあった俺からの拒絶も無くなっていると言うことを……アイツは気付いているのだろうか。  秋山が向ける酷く重たい気持ちに、俺がカナリ絆されちまってるってことに、彼奴は…気付いてるんだろうか。 「さっさと言えよな、馬鹿野郎」  零れ落ちた言葉は、シャワーの水と共に排水口へと吸い込まれていった。 「あ、もう出ます? 店まで送ります」  バイトの制服を手に持った所で、それに気付いた秋山がキャップを持って立ち上がる。最近秋山が気に入ってよく被ってる、ブルーグリーンのやつだ。 「俺、女じゃねんだけど」 「やだなぁ、少しでも一緒に居たいからじゃないですか。勿論帰りも迎えに行きますからね」  だから今日は泊めてくださいね。とキャップを被りながら笑う秋山に、だったら…と風呂場で考えたことと同じことをまた、考えた。  でも秋山はそれ以上を言わない。何も、進まない。  怖じ気付いたのか、駆け引きなのか、それとも…。 「上がり、1時だから」 「分かりました」  そこで口に出せない俺もまた、秋山と同じなのかもしれない。どちらもきっと、肝心なところで意気地無しなのだ。

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