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「…兄貴は?」  部屋で少しうたた寝をしている間に、帰って来ているはずの秀一の姿が無くなっていた。昼間よりも少しだけ涼しくなった居間には庚の姿しかない。 「秀一なら、ミツさんと畑に行ったよ」  庚が読んでいた本をパタリと閉じる。 「庚さん…」 「亮平、おいで」  まるで手綱を引かれる様にして、亮平のカラダがふらふらと庚に近付く。 「ミツさん、張り切ってたから暫くは戻らないよ」 「庚さん」 「だから、ゆっくり愛してあげる」  ねっとりと舐め上げられた唇が震える。  (俺の事なんて…愛してないくせに)  思わず出かかった言葉を呑み込み、亮平は目の前に吊るされた甘いお菓子に喰いついた。 「ぃぎっ、あ"っ、あっ…はっぁ、」 「また処女みたいになってる」  昨年より庚に慣らされたカラダは、しかして時間を開けるたびに、まるで初めての様に頑なにそこを閉ざす。 「普段自分でしてないの?」 「ぅあっ、あっ、ひっ…あ、」  言葉の緩さに反して、バラバラと激しく動く指に亮平の思考回路は焼き切れる寸前だった。 「まぁ、解れすぎてても何か気に入らないけど」  返事など期待していない庚は、くすっと笑みを零し暴れさせていた指を勢い良く抜き取った。  初めこそ硬く閉ざしている癖に、指が抜けると物欲しそうにパクパクと開閉するそれ。 庚はそれを見て、ただ黙って舌舐めずりした。  庚が初めて亮平を抱いたのは、亮平がまだ中学生の時だ。それからほぼ一年が経ち、亮平も今年高校生になった。一年前にはもう少し華奢だった亮平の腰を掴み引き寄せると、両手の親指で入り口をクイと開け悪戯に指で刺激する。 「欲しいって言ってよ、亮平」  毒のような甘い声でそっと囁くと、亮平が悔しげに畳に爪を立てた。  庚はいつも、居間の隣に有る大広間に亮平を組み敷く。  開け放たれたドア、窓、障子。  喘げば直ぐ外に響く上、フローリングと違い汚せば染み込んでしまうそこで抱かれる事を亮平は酷く嫌がったが、庚はそんな嫌がる亮平の姿が見たくて、いつもここに押し倒した。 「ねぇ亮平、早く言ってよ。グズグズしてると、ミツさんたち帰って来るよ」 表情が見えない代わりに、焦ったのか晒された後孔がピクッと引き攣った。 「欲しっ…挿れ…て」 「ここ?」  大して余裕の無い血管の浮き出たペニスを入り口に擦り付けると、まるでそれを食むように入り口が動いた。  亮平が堪らず畳に爪を立て、叫ぶ。 「そこぉっ! っやく、早くぅ!」  ぐらりと揺れる亮平の腰と、庚の理性。 「ぅぐあぁあぁっ!!」 「っく、」  優しさとは程遠い突き入れに、亮平のペニスからトプッと欲が溢れた。そのまま蜜は止まる事なく溢れ続ける。 「挿れただけでイっちゃったの、亮平」 「ぁ……ぁ、あっ、…」 「…………」  返事も出来ずカラダを震わせ畳にしがみ付いたままの手に、庚は自身の手を重ね、指を絡ませる。 「ぃぎっ!?あっ!あ"っ!ふあっあっ!」  更に密着した角度で庚のペニスを抽送させれば、亮平の視界で火花が散った。 「かのっ、さ…ひっ!まだ、まだイったばっ、あっ!あっ!ひぎッ、あふっ」  内部でプクリと膨れ上がり主張する、亮平の“良いところ”。そこを容赦無く擦りあげられた亮平は閉ざす事の出来ない口から唾液を漏らし、あと少しで迎える最上級の絶頂に身を震わせた。 「ぁあ"ッ!あっ!あ"!!ひあっ」  でも決して、喜びで震わせた訳じゃない。 「あっ、もっ、やぁ…イクっ! イクぅ! あっ、ぁあ"ッ!!」 「…ッ………」  愛撫を受けて腫れ上がっていた胸の突起を摘まれ、その刺激に思わず中を締め付けると促された庚が中に欲を放った。その熱に誘われ、亮平も駆け上る。 「ぁ…はっ、ぁ………」  痙攣を繰り返すカラダを投げ出したまま、亮平は再び硬度を取り戻した庚に揺さぶられた。  亮平は初めて会った時から、抱かれたあの日からずっと、庚を愛している。けれど、揺さぶられるその瞳には光など一つも残っていなかった。 『秀一』  もう何度目か分から無い庚との情交。  その度に体感させられる凄まじい絶頂の波と、その後に訪れる絶望の嵐。庚はいつも、亮平が一番気持ちの良い時に、最も聞きたくないその名を口にした。  出会った瞬間に呑み込まれる様にして落ちた恋。受け入れて、熱を共有して、幸せの絶頂で地獄に堕とされた。  ちっとも似ていないはずの兄の身代わりだと知ってどれ程泣いただろう。それでも尚、庚との関係を断ち切れないのは。  絶望しながらも矢張り、彼を、庚だけを愛しているから。  愛される為に生まれた秀一の代わりに身を差し出す。唯一それだけが、庚に愛される方法だと思っているのだ。  光を失った亮平は、その後本当に意識を飛ばすまで狂った様に庚に抱かれた。  それでも気持ちが良いと思う浅ましい自分に、亮平は呑み込まれた闇の中でひっそりと涙した。

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