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ズササ―…ザザッ
必死に砂浜を這いつくばって進む人影の姿に再び視線を送れば、血まみれになった少年の姿がはっきり見える。
手を前に伸ばし、小さな体を懸命に動かしていた。
漆黒の触り心地がよさそうな髪の毛には、べっとりと鮮血がこびりついているようだった。
腹部付近を中心に血が出ているのだろうか。腹部から下が真っ赤に染まっており、少年がいた砂浜が血で染まる。
「あの子…!大変!!」
異様な光景に目を見開く。
急いで助けないと…その一心で少年の方へ向かおうと、木陰から出ていこうとした湊の横を、小さな何かがすり抜けていった。
えっ…
『ねぇ!!どうしたの?おにいちゃんだいじょうぶ?』
出遅れてしまった湊は足を止める。
見れば、5歳くらいの小さな少女が、少年に駆け寄り体を揺さぶっていた。
おにいちゃんという事は兄妹なのだろうか。
大きな瞳に沢山の涙を溜めながら、少女は必死に少年に問いかけていた。
さらさらで色素の薄いブラウンの髪は肩程まで伸びていて、襟足も綺麗に揃えられた少女は、透き通るように白い肌を肩から出しており、目尻に堪った涙を流しながら、琥珀色の大きな瞳を少年に向けていた。
「兄妹なのかな…?でもあの子…」
見た事があるような…
なんだろう、この感じ…すごく、懐かしい…。
そんな感情と同時に潮風_が湊の体を包みこむ。
湊が住んでいる所では経験出来る事のない気持ちの良い潮風は、目を閉じていても海辺にいる感覚が分かるほど清々しく気持ちが良い。
しかし、その懐かしさの記憶を思い出す事が出来ない。
『おまえ…だれだ…ッ!?あたらしいしかくか!?』
『え?しかくってなぁに?…それよりおにいちゃん、これどうしたの?ケガしてる!血が出ているよ!痛い痛いだよ!』
少女は心配そうに少年に問う。
「なんか変…あの子たち兄妹じゃないの…?」
少年の方は敵意をむき出しにして少女を睨んでいた。
恐らく兄妹でも知り合いでもないのかもしれない。
『ぼく、ハンカチもティッシュも持ってるから!血をふかなきゃ!!』
…ん?
ぼく?
「い、今あの子ぼくって言った…?」
と言う事は、あの子男の子!?
可愛らしい顔立ちと華奢な体付き。
どう見ても少女にしか見えなかっただけに驚いてしまう。
「…全然分からなかった…」
少女は、ショートパンツのポケットから真っ白のハンカチを取り出すと少年の血を拭き始める。
真っ白だったハンカチは、見る見るうちに血を吸い込んでいき、あっという間に赤く染まってしまった。
「取りあえずあの子達をなんとかしないとっ…」
2人の様子を見たまま動きが止まっていた湊は、はじかれたように二人の場所に駆け寄り、姿勢を低くして話しかける。
「二人とも大丈夫?お父さんかお母さんはいないの?」
早く手当てをしないと…と焦る気持ちを抑えながら、傷を負った少年に差し伸ばす。
しかし湊の手は、あろうことか少年の体をすり抜けてしまった。
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