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―…まただ…
『おれにかまうな!!!おまえが“あいつら”から出されたしかくだっておれには分かるんだよ!』
『なにを言っているのか分からないよ!こんな…こんなにいっぱい血が出ているんだよ!しんじゃうよぉ…ぅっ…ひっく…』
少年は目の前の血まみれの少年の体を見ると、ガラス玉の様な大きな瞳からぽろぽろと涙を零した。
『なぜおまえが泣くんだ!おれをころしにきたくせにッ…』
少年は、華奢な少年の涙の理由が分からず声をあげる。
真っ赤に染まったハンカチを握りしめながら目元を拭ってしまったせいで、華奢な方の少年までもが血だらけになってしまった。
もはや、どちらが怪我人か分からない状態だ。
「なんで…?なんで今…すり抜けたの…?」
湊はすり抜けた手を見た。
確かに触ったはずだった。間違いなく…
だが、見慣れた自分の手に何も不思議な事はない。
「どういう事…っ」
思えば、この場所に来てから不思議な事ばかりが立て続けに起こった。
目の前の少年2人に自分の声は届かず、触れる事すらも出来ない。
そんな事があるのだろうか。
元を辿れば、自分が今何故この場所にいるかも分からなかった。
ここに来る前は…そう、確か―――
「とう…さん…」
そうだ。
父さんが帰ってきて、俺はマンションから飛び出した。
10年ぶりに漸く‘仕事’から帰宅した唯一の血縁者の父親と再会をしたはずだった。
しかしこの場所に来る前に父親と再会したという記憶はない。
何故…?と考えを巡らせると同時に、再び激しい頭痛が襲ってきた。
「いッ…!」
マンションの下にある公園の木の陰から、湊のいる部屋を真っ直ぐに見上げていた男。
あれは紛れもなく父親本人だったはずだ。
でも、部屋を出てマンションら外に出た時は、すでに人影はなくなっていた。
「どうして…」
なんで俺から逃げるの?
「父さん…っ」
俺、父さんが帰って来るのをずっと待っていたんだよ。
俺には、母さんがいなくなってから父さんしかいなかった。
それなのに、父さんまでもが俺の前からいなくなった。
もう、いやだ…。
闇に飲み込まれそうになる湊の頭の中に浮かんできた龍司の笑顔。
すがるように手を伸ばすが、届く事はなかった。
さっきまで平気だったはずの足が震えてくる。
がくがくと震える足は両親だけじゃなく、立つ力さえも奪っていき、湊は力なく地面に座り込んでしまった。
もはや目の前の少年達を気にする事も出来なくなっていた。
「助けて龍司…っ」
次に口から発した名前は、唯一どんな時でも湊のそばで湊を支えてくれた人の名前だった。
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