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龍司はジャケットの内ポケットから煙草を取り出すと咥え、火をつける。 ほろにがい煙が体中に染みわたってきた。 このまま嫌な事も全て煙に混ざって吐き出せたら、どんなに楽だろうか…そんな事が頭を過った。 「返事は?」 『仰せの…ままに…ッ』 震えながら絞り出した男の声が聞こえると、すぐに電話を切った。 龍司は携帯を握りつぶし、壁へと叩き付ける。 携帯は音を立てて床へ転がり落ちた。 「湊。待っていろ」 龍司はエレベーターで地下駐車場に降りていくと、車に乗り鞄のポケットから再び携帯を取り出した。 慣れた手つきで携帯を弄ると耳元にあてる。 『はい、A01でございます』 透き通る様な綺麗な声が受話器の向こうで聞こえた。 声の主は優秀な秘書であり、龍司が最も信頼をおける配下の1人、A01である。 「俺だ。全員に伝えろ。T01を地下牢行きにしたと」 『!!』 『…かしこまりました。…社長、詳しくお聞きしていいのか分かりませんが…湊様に関わる事でしょうか…?』 「…。」 龍司の言葉に息を呑む電話越しの男は、恐る恐るしかし確信を得た様に訊ねてきた。 だが、龍司はその問いかけには答えず、座席の背もたれに体を預けながら、何もない車の天井を一点に見つめたまま黙り込んだ。 そしてゆっくりと目を閉じる。 瞼を閉じても、当たり前のように浮かんでくるのは、湊以外の誰でもない。 ―――あいつはやっぱり、すぐに殺しておくべきだった… あの悲惨な出来事の後、すぐに朋也を消していればこんな事にはならなかったし、湊の記憶は消えたまま…あの時の辛い記憶を一生思い出さずに済んだはずだ。 『…社長…?』 「…T01が地下牢行きになったという事は…湊が絡んでいない訳がない。」 閉じていた瞼をゆっくりと開くと、龍司は静かに答えた。 座席の背もたれから体を起こすと、車のエンジンをかける。 ひんやりとしていた車内に暖かい風が流れ込んできた。 「A01。今すぐに湊を俺の元に連れてきてくれ」 『っ!私が…ですか?』 「これはお前にしか頼めない事だ。俺の大切な配下の中で信頼をおけるお前だから、この任務を命令する」 『…!!』 「それと、お前と一緒にZ2も連れていけ。恐らく今T01は湊と一緒にいるはずだ。」 電話越しの声がやけに大きく感じるのは、静けさのせいもあるのだろう。 備え付けのカーナビに表示されてある時刻を見れば、早朝の4時を迎えようとしていた。 静寂の中聞こえるエンジン音は、ひと際大きい音にさえ感じる。 龍司は煙草を咥え、火をつけた。 「返事は?」 ふぅ、と静かに煙をはくと白煙が車内に広がる。 『…仰せのままに。必ず、湊様を社長の元へ連れてまいります―…。』

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